【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

97 気持ちが透けて見える日  緋色

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政巳まさみ、おめでとう」 

 そう言って、成人なるひと政巳まさみに渡したのは、名前入りのペンだった。常陸丸ひたちまる三郎さぶろうに買っていたペンより値段の安い物だが、デパートで扱うだけあって、それなりの品である。名前も、百円で入れてもらえるから奮発したのだろう。

「ありがとうございます」

 もう今日は、来月分の笑顔を使いきるのじゃないかという勢いで頬を緩めっぱなしの政巳まさみが、目も潤ませ始めた。
 成人なるひとが喜ぶなら、と始めた毎月の誕生日会は、主役になった者の心に、様々な影響を及ぼしているようだ。
 幾つになっても、こうして人に祝ってもらえるというのは、悪くないな。
 そこでふと、気付く。

壱臣いちおみ。お前の誕生日は?」

 祝った覚えがないが、うちに来たのはいつだったか?
 髪を丁寧に梳かしてもらっていた三郎さぶろうが、はっとしたように振り返る。

「うちは、六月三日です」
「だいぶ過ぎたな。来月の誕生日の者と一緒に祝うことにしよう。半助はんすけは?」

 壱臣いちおみ三郎さぶろうの髪を手入れする様子を、嫌そうに見ていた半助はんすけにも聞いておく。

「二月二七日です」
「そちらは次の二月でいいな」
「うちも六月を楽しみに待ちますよ?」
「いや、やっておけ」
「そう……ですか?」

 うちに来てから、いつも準備を頑張ってくれていた壱臣いちおみの順番が長く回ってこないのは、どうにも納得がいかないからな。

「嬉しい、です」

 はにかむように笑う顔が何とも色っぽい。誕生日を知らないということは無かったようで安堵した。

「兄上の、誕生日……」

 呆然と呟く三郎さぶろうは、今初めて日付けを知ったのだろうな。
 今までの九鬼くきの様子を総合して考えると、三郎さぶろうの、いや一二三ひふみの誕生日には、派手な宴が開かれていたに違いない。そして、壱臣いちおみのための宴が開かれることは無かったろう。
 来月に壱臣いちおみも祝うと言ったことで、分かりやすく頬を緩めた半助はんすけ壱臣いちおみの後ろからひょいと左腕を回した。

「わ、なに?半助はんすけ、どうしたん?」
「別に?」

 誕生日会をやることで、堂々と祝えることは、とても幸せなことなのだと気付いた。祝えなかった今までの分まで祝いたい気持ちは、とてもよく分かる。
 特定の誰かを、特別に大切に思っている、と伝えることができたと、喜んでいる者がいた。改めて、日頃の感謝の気持ちを伝えられたと、喜んでいる者もいた。
 大切な気持ちが行き交うのを見るのは、悪くない。
 水瀬みなせ。お前が政巳まさみに渡した腕時計、先月、政巳まさみがお前への誕生日プレゼントに贈った上等な腕時計と色違いのお揃いだろ?
 色々と、気持ちが透けて見える。
 ああ、楽しいもんだな。
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