447 / 1,325
第五章 それは日々の話
97 気持ちが透けて見える日 緋色
しおりを挟む
「政巳、おめでとう」
そう言って、成人が政巳に渡したのは、名前入りのペンだった。常陸丸が三郎に買っていたペンより値段の安い物だが、デパートで扱うだけあって、それなりの品である。名前も、百円で入れてもらえるから奮発したのだろう。
「ありがとうございます」
もう今日は、来月分の笑顔を使いきるのじゃないかという勢いで頬を緩めっぱなしの政巳が、目も潤ませ始めた。
成人が喜ぶなら、と始めた毎月の誕生日会は、主役になった者の心に、様々な影響を及ぼしているようだ。
幾つになっても、こうして人に祝ってもらえるというのは、悪くないな。
そこでふと、気付く。
「壱臣。お前の誕生日は?」
祝った覚えがないが、うちに来たのはいつだったか?
髪を丁寧に梳かしてもらっていた三郎が、はっとしたように振り返る。
「うちは、六月三日です」
「だいぶ過ぎたな。来月の誕生日の者と一緒に祝うことにしよう。半助は?」
壱臣が三郎の髪を手入れする様子を、嫌そうに見ていた半助にも聞いておく。
「二月二七日です」
「そちらは次の二月でいいな」
「うちも六月を楽しみに待ちますよ?」
「いや、やっておけ」
「そう……ですか?」
うちに来てから、いつも準備を頑張ってくれていた壱臣の順番が長く回ってこないのは、どうにも納得がいかないからな。
「嬉しい、です」
はにかむように笑う顔が何とも色っぽい。誕生日を知らないということは無かったようで安堵した。
「兄上の、誕生日……」
呆然と呟く三郎は、今初めて日付けを知ったのだろうな。
今までの九鬼の様子を総合して考えると、三郎の、いや一二三の誕生日には、派手な宴が開かれていたに違いない。そして、壱臣のための宴が開かれることは無かったろう。
来月に壱臣も祝うと言ったことで、分かりやすく頬を緩めた半助が壱臣の後ろからひょいと左腕を回した。
「わ、なに?半助、どうしたん?」
「別に?」
誕生日会をやることで、堂々と祝えることは、とても幸せなことなのだと気付いた。祝えなかった今までの分まで祝いたい気持ちは、とてもよく分かる。
特定の誰かを、特別に大切に思っている、と伝えることができたと、喜んでいる者がいた。改めて、日頃の感謝の気持ちを伝えられたと、喜んでいる者もいた。
大切な気持ちが行き交うのを見るのは、悪くない。
水瀬。お前が政巳に渡した腕時計、先月、政巳がお前への誕生日プレゼントに贈った上等な腕時計と色違いのお揃いだろ?
色々と、気持ちが透けて見える。
ああ、楽しいもんだな。
そう言って、成人が政巳に渡したのは、名前入りのペンだった。常陸丸が三郎に買っていたペンより値段の安い物だが、デパートで扱うだけあって、それなりの品である。名前も、百円で入れてもらえるから奮発したのだろう。
「ありがとうございます」
もう今日は、来月分の笑顔を使いきるのじゃないかという勢いで頬を緩めっぱなしの政巳が、目も潤ませ始めた。
成人が喜ぶなら、と始めた毎月の誕生日会は、主役になった者の心に、様々な影響を及ぼしているようだ。
幾つになっても、こうして人に祝ってもらえるというのは、悪くないな。
そこでふと、気付く。
「壱臣。お前の誕生日は?」
祝った覚えがないが、うちに来たのはいつだったか?
髪を丁寧に梳かしてもらっていた三郎が、はっとしたように振り返る。
「うちは、六月三日です」
「だいぶ過ぎたな。来月の誕生日の者と一緒に祝うことにしよう。半助は?」
壱臣が三郎の髪を手入れする様子を、嫌そうに見ていた半助にも聞いておく。
「二月二七日です」
「そちらは次の二月でいいな」
「うちも六月を楽しみに待ちますよ?」
「いや、やっておけ」
「そう……ですか?」
うちに来てから、いつも準備を頑張ってくれていた壱臣の順番が長く回ってこないのは、どうにも納得がいかないからな。
「嬉しい、です」
はにかむように笑う顔が何とも色っぽい。誕生日を知らないということは無かったようで安堵した。
「兄上の、誕生日……」
呆然と呟く三郎は、今初めて日付けを知ったのだろうな。
今までの九鬼の様子を総合して考えると、三郎の、いや一二三の誕生日には、派手な宴が開かれていたに違いない。そして、壱臣のための宴が開かれることは無かったろう。
来月に壱臣も祝うと言ったことで、分かりやすく頬を緩めた半助が壱臣の後ろからひょいと左腕を回した。
「わ、なに?半助、どうしたん?」
「別に?」
誕生日会をやることで、堂々と祝えることは、とても幸せなことなのだと気付いた。祝えなかった今までの分まで祝いたい気持ちは、とてもよく分かる。
特定の誰かを、特別に大切に思っている、と伝えることができたと、喜んでいる者がいた。改めて、日頃の感謝の気持ちを伝えられたと、喜んでいる者もいた。
大切な気持ちが行き交うのを見るのは、悪くない。
水瀬。お前が政巳に渡した腕時計、先月、政巳がお前への誕生日プレゼントに贈った上等な腕時計と色違いのお揃いだろ?
色々と、気持ちが透けて見える。
ああ、楽しいもんだな。
1,428
あなたにおすすめの小説
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】獣王の番
なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。
虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。
しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。
やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」
拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。
冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる