【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

159 美味しいもの  緋色

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「雑煮を温めます。皆さん、いりますか?お餅は幾つ焼きましょうか?」

 壱臣いちおみが、挨拶を終えるなり、にこにこと立ち上がる。
 正月で人の少ない離宮。働き手を皆帰したので、食堂の机には、お重に詰められたおせちだけが、幾つも置かれている。
 一つはすでに蓋を開いて、利胤としたねの酒の肴になっていた。

壱臣いちおみ、気にしなくていいぞ。休みなんだからな」

 俺の言葉に、ふんわりと壱臣いちおみが笑う。

「ついでです。うちが食べたいんやから、一つ焼くのも五つ焼くのも一緒やし。雑煮も、鍋で温めるんやから、何人前でも大丈夫ですよ」
「手伝います」

 生松いくまつが身軽に動き、厨房へと付いていった。半助はんすけも当然のように壱臣いちおみから離れない。
 あの二人にしては遅い起床時間、壱臣いちおみの首もとの赤い痣。どうやら、良い時間を過ごしているようだ。
 こちらは、大掃除という行事に張り切った成人なるひとが早々に眠ってしまい、お預けをくらったというのにな。
 腕のなかの成人なるひとを抱え直せば、によによと締まりのない顔ですり寄ってくる。
 そんなに、お年玉が嬉しかったのか?
 手のポチ袋を見れば、確かに俺の頬も緩む気がした。金額どうこうじゃなく、こういうやり取りが嬉しいものなのかもしれない。
 
文明ぶんめいも、起こしてこよう」

 睦峯むつみねが、思い付いたように部屋を出ていく。さいの、天候悪化で引き起こされる頭痛は成人なるひとよりも酷い時が多く、無理をする性格なことも災いして、体調を崩しがちだ。
 睦峯むつみねが付きっきりで管理するようになってからだいぶましになったが、過保護なほどに気にかけている。
 そんなに心配なら二人部屋にするか、と聞いてみたが、考えます、と言ったまま、保留されている。まあ、部屋数はいくらでもあるので、隣同士の部屋が面倒になったら移ればいいだろう。
 正月なんだから、何時まででも寝かしておいてやればいいのに。いや、でも食事はしっかりとらせたいのか。
 さいも、食事をあっさり飛ばすからな。
 どうにも、睦峯むつみねの行動が、俺が成人なるひとへ取る行動と重なって思えて、首を傾げる。やはり、二人部屋に早々に移してしまった方が良さそうだな。
 同じ部屋で寝る者がいれば、電気を遅くまで付ける訳にもいかず、睦峯むつみねの徹夜も減るかもしれん。
 
「殿下。少し飲まれますか?」

 息子二人がいなくなったのをいいことに、また酒の蓋を開けた利胤としたねが、機嫌良く尋ねてくる。
 気分良く、応と答える前に、酒は成人なるひとに取り上げられた。

「ちゅーできなくなるから、やだー」

 ぶはっ、と思わず吹き出した。
 可愛いことを言う口を、しっかりと塞いでちゅーを堪能する。
 お前が起きている時に酒を飲むのは、諦めることにしよう。ちゅーの方が美味しいからな。
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