【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

158 幸せ  成人

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「おはようございます。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」

 挨拶をしながら食堂に入ってきたのは、壱臣いちおみ半助はんすけだ。

「あけましておめでとうございます」

 食堂にいた皆で挨拶を返す。緋色ひいろは、あけましておめでとう、と言う。ございますを付けない。身分が高いからね。身分の話も難しいけれど、軍の中での階級に当てはめれば、すぐに覚えられた。
 父さまが一番上で、雫石しずく母さまが二番、朱実あけみ殿下と赤璃あかりさま、緋色ひいろがその次。後は、赤い色やそれに近い色を身に付けている人が偉い。礼を尽くさなければならない。
 この間、赤璃あかりさまの部屋に来た医師は、礼儀を忘れて罰を受けていた。相手が誰か分かっているのに礼儀を忘れるなんて、それは叱られても仕方ないと思う。
 着ている服に、色が付いていて見分けられるのは助かる。顔を覚えて、自分より上か下か判断しなさいって言われても、難しいよね。特に、真ん中へんの人って大変じゃないかなあ、と説明を聞いたときに思った。
 俺は帝国では、一番下、っていうか、人でも無かったから、人を相手なら誰にでも従って、頭を下げて大人しくしていたら良かったので、礼儀知らずって叱られる心配なんて無かった。礼儀知らずな行動なんて取れないように作られてたんだろうし、どんな行動が礼儀知らずかも知らない。
 あ、でも、あれか。
 緋色ひいろを殺せって命令に背いて、壊れかけた時の、あれ。確か、頭が割れそうになりながら、どうしても緋色ひいろを攻撃したくなくて、命令の出所を壊そうと必死で動いたあの時の行動が、礼儀知らずだったのかも。
 いや。あれは、命令違反か。
 どちらにしろ、規律を破って死にかけたってことだな。あの時は、あのまま死んでも幸せだったし、その上緋色ひいろが助かるならそれでいい、と思ってたから、あの行動は俺的に正しかった。
 今は、生きてて良かったなあ、と思う。
 手当てしてもらった。
 名前をもらった。
 美味しいものを食べさせてもらった。
 布団や、服や、たくさんの気持ちいいものを与えてもらった。
 抱っこしてもらったり、頭を撫でてもらったり、たくさんの気持ちいいことを知った。
 緋色ひいろを好きになった。
 幸せだなあ。
 緋色ひいろにくっついて、によによと笑ってしまう。もう、ずっと笑ってても、頬っぺたが疲れることもなくなった。前は、動かしにくかった頬っぺたも口も、今は好きな形にできる。
 緋色ひいろが大好きだ。
 好きになったときは知らなかったけど、誰かを好きになることは、生きたいって気持ちにさせるものなんだなあ。
 俺は今日も、幸せだ。
 
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