【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

163 予定の無いときは  三郎

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「ああ、はい。では、よろしくお願いします」

 生松いくまつ先生にあっさりと了承されて、ほっとした。これで、何かをして過ごすことができる。

三郎さぶろう。こっち来い」

 誰からも程よく距離を置いて座っていたところを利胤としたねさまに呼ばれた。

「はい」

 と、立ち上がると、生松いくまつ先生の座っているのと逆側の床を、ぽんぽんと叩かれる。言われるまま、すぐ隣に腰を落ち着けたが、特に何も言われずに食事を進めていらっしゃった。
 自分も、よくよく息を吹きかけた雑煮に口をつける。先に器に入れたものをもらって良かった。こちらで食事をするようになってから、少しは慣れたとはいえ、熱いものはなかなか口に入れられない。
 美味しい、と感じているのは間違いない。温かい料理は、身のうちからぬくまるようで、とても好きやと感じているのに、出来立ての料理を不用意に口に入れると、舌が傷を負ってしまうのだ。生まれてからずっと食べてきた豪華な冷めた料理より、熱いのを冷ましながら食べる料理の方が余程美味しい、と心は感じているのに、体はなかなか受け付けるようにはならぬらしい。

「こちらも食え」

 雑煮をあらかた食べ終える頃、利胤としたねさまがつついていたおせちの重箱を、私の方に少し寄せてくれた。

「ありがとうございます」

 礼は言ったが、取り分けられていない食事は、どれをどのくらい食べてよいのか分からず、頂くことができない。

「どれが好きか分からぬなら、一つずつ摘まんでみるといい」
「はい」

 そんな食べ方でええのか、とほっとする。

「もうちいと、気楽にせい。というても、難しいか」
「あ、いえ。すみません」
「何も謝ることはない。そうじゃなあ。お前は、いつも暇を潰すときは何をするんじゃ?」
「暇を潰す……ですか?」
「今は暇がないというなら、幼い頃にしておったことでもいい。予定が無いときは何をしておった?」
「予定の無いとき……」

 私の予定は、常に誰かに決められていて、私はそれに沿って動いていただけやった。予定の無いときというのはあったやろか。

「本を読むのは好きか?人と話すのはどうじゃ?剣の訓練は?」

 それらは、予定の無いときにすることなんやろか?本を読む、学友と歓談、剣の鍛錬、という予定やったと思うんやけど。

「その中でしたら、本を読むのが好きです」

 決められた時間、渡された本であっても、静かに一人でいられるから。

「そうか。どんな本を読む?」
「うーん。渡されたものをとりあえず……」
「何でも読むのか、凄いな。わしは本をじっと読むのは苦手じゃから、何でも読めるとは、凄い凄い」

 え?本を読めるのが凄い?そんなの誰でも読むやろ……。

「この正月にのんびりと読む本を買っておけば良かったのう。この家は、図書室が無いから、ひょいと借りて読めんだろう」
「あ、それについて、殿下に提案が」

 図書室、と聞いてさいさんが声を上げた。
 
 
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