【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

162 仕事が欲しい  三郎

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壱臣いちおみさん。洗い物は俺達がするから、置いといて」

 睦峯むつみねさんが雑煮を食べながら、厨房から戻ってきて座った兄上に声をかける。俺達、と隣で座椅子に座るさいさんを見ていたから、二人でするんやろう。
 また、先を越されてしまった。

「え?気にせんでええよ。うちの仕事やし」
「いや、だから今日は、本当は休みなんだって。でも結局、食事は頼ることになるから、せめて洗い物ぐらいさせて」
「うん、ほな甘える。ありがとうね」

 話はついてしまった。きっと、この後の昼や夜の片付けも、二人で手早く済ませてしまうことやろう。洗う人と拭く人がおれば十分やから、これ以上の人手はいりそうにない。
 他に。他にしなければいけないことは何や?
 掃除は、余程気になる場所以外は、そのままにしておいてください、と水瀬みなせさんが言っていた。

「三日くらい掃除をしなくても、なんてことありません。休み中に下手に動かないように」

 確かに、私が指示もなしに一人で掃除ができるとは思えない。戻ってきた人に余計な手間をかけさせてしまう気がする。

「俺、お風呂洗いする!」

 何かを一生懸命噛んでいた成人なるひとさまが、ようやく飲み込めて、声を張り上げた。
 ああ。そうか。
 お風呂洗い!お風呂は昨日も使用したから洗わないといけない。

「あ、私もお手伝いを……」

 風呂の広さを思い出して、二人いてもいいのじゃないかと口を開けば。

「駄目だ」

 殿下の鋭い声が飛んだ。
 え?駄目?何が?

「風呂場は寒い。お前の冬場の風呂洗いは却下」
「え?えええええー」
「そうですね。お風呂場は流石に冷えます。成人なるひと向けの仕事ではありませんね」

 生松いくまつ先生にも駄目だと言われて、成人なるひとさまががっくりと項垂れた。

「お風呂は、洗えるのに」

 確かに、気温が低くなる前は、成人なるひとさまがお風呂洗いをしている姿を見たような気がする。この家に来たばかりの頃の記憶やから、曖昧やけど。

「俺がやろう」

 半助はんすけが、すらりと言った。一人では、風呂の洗いかたが分からんけどどうしようか、と少し躊躇ったのがあかんかった。
 でも、片手でもできる仕事なのなら、任せた方がいいんかもしれん。半助はんすけは、私が手伝うのは嫌やろな。
 うちも手伝う、と兄上の声が聞こえる。

おみは休んどけ」
「ええやん。二人でやった方がはよ終わるし、楽しそう」

 私も手伝うって言ったら、半助はんすけに更に嫌われそうや。

成人なるひとは、私とお洗濯しましょうか」
「するー」
「洗濯場も寒いだろ」
「早く乾くように、暖房を付けて洗濯物を干しますから、暖かくなりますよ。洗濯物を脱水に移す時に、洗濯槽の中に手を入れるのは禁止にしますから。水が冷たいですからね」

 生松いくまつ先生が、成人なるひとさまを仕事に誘っている。ああ、もう他には仕事が無さそう。この機会に、洗濯の仕方を覚えよう。そうだ、そうしよう。
 必死で声を掛けてしまった。

「あの。洗濯のお手伝いをさせて頂きたいんですが、よろしいでしょうか」

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