【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

215 特別な味  成人

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「美味しい!」

 熱いたこ焼きを口に入れて、はふはふしながら力丸りきまるが言った。
 そうだろ、そうだろ。
 なにせ、緋色ひいろが作ったたこ焼きだもの。絶対、美味しいに決まっている。
 俺は、大急ぎでたこ焼きを二つに割った。かつお節や青のりを別のお皿に避けてから、ふーふーする。あああ、どうして俺は、熱いたこ焼きを食べられないんだ。
 思い切って口に入れてしまおうか、と半分に割ったたこ焼きにつま楊枝を刺したところで、後ろから抱き込まれて手を掴まれた。

「また舌を火傷するぞ。慌てるな」
緋色ひいろ

 鉄板の一回分だけ焼いた後は、もう広末ひろすえと入れ替わっている。

「もう終わり?」
「お前の分が焼けたら、それでいいだろ」
「そういうもの?」
「そういうもの」

 うん。まあ、俺は、特別に美味しいに違いない、緋色ひいろが焼いたたこ焼きを食べられたらそれでいいので、問題ない。
 隣には、常陸丸ひたちまるも鉄板の前から引きあげてきてて、乙羽おとわをひょいと膝の上に乗せた。

常陸丸ひたちまる、格好よかったわ。何でも上手なのね。すごい」

 常陸丸ひたちまるは、顔をくしゃっとさせて笑う。

緋色ひいろも格好よかったよ」
「当たり前だ」

 俺が言うと、緋色ひいろがにやっと笑った。格好いい!好き。
 俺と力丸りきまるなんて、初めて作った時、丸くなったもののほうが少なかったのに、今二人が作ったたこ焼きは全部丸かった。俺が作るときはいっつも、生地やたこは村次むらつぐに入れてもらって、ひっくり返すだけなのに、それも全部二人でやってた。

「練習だよ、何事も」

 始めから、美味しそうなたこ焼きをぽんぽん焼いていたように見える広末ひろすえが言う。
 ん?練習?

緋色ひいろ、練習したの?」
「さあな」

 緋色ひいろは知らん顔で、俺を膝の上に乗せた。

「ずりい。二人で隠れて練習してたんだな。成人なるひと義姉上あねうえに格好よく見せようと思って」
「え、練習してくれたの、常陸丸ひたちまる。私のために?」

 力丸りきまるの抗議の声に、乙羽おとわが、ぱっと笑って振り返った。

「え、あ、う……。いや、まあ、そうだな」
「ありがとう。嬉しい」
「うん、そうか……。喜んでもらえて良かったよ」

 常陸丸ひたちまるは、乙羽おとわに喜んでもらうために、一生懸命練習したんだ。そんなの、嬉しいに決まってる。
 じゃあ、緋色ひいろは?緋色ひいろは俺に喜んでもらうために練習したの?
 何だか胸がじわじわと温かくなるような気がした。何だろう、これ。
 振り返ると緋色ひいろの手に、半分に割っていたたこ焼きがあった。ふーふーするために避けていたかつお節が少し戻されている。ほら、と言われて口を開けた。

「あむ」

 口に入ったほんのりと温かいたこ焼きは、予想通り、いや、予想よりもっとずっと、特別に美味しい味がした。
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