【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
574 / 1,325
第六章 家族と暮らす

9 伴侶  成人

しおりを挟む
 緋色ひいろが向かったのは、皇族の入り口だった。昨日、俺が入れなかった所だ。

「そっち、俺、入れないよ?」
「入れるはずなのに門前払いしたんだ。訂正しに行かないといけないだろう?」
「そうなの?」
「俺の伴侶に入れない場所は、この国にはない」

 おお。なんか格好いい!
 俺の旦那様、格好いい!
 
緋色ひいろ殿下」

 その入り口には、二人の兵士が立っている。一人は、昨日と同じ人だ。正面の警備兵と同じに見える黒い軍服姿だけれど、よく見るとその襟元には、薄い赤色の細い線が一本入っていた。皇族の側近くを守る近衛兵の証。常陸丸ひたちまる力丸りきまる半助はんすけの軍服にも入っている。
 その兵士二人が、綺麗な包拳礼の形を取った。

「ああ、おはよう」
「おはようございます。こちらからのお越しとはお珍しい」
「聞きたいことがあるんだが」
「はっ」

 緋色ひいろは、さっきの入り口でしたのと同じように、俺の肩を抱いて自分の体にくっつけた。

「名前を知っているか?」
「は、はい」

 昨日俺に、ここから入れる方の名簿に成人なるひとという名はありません、と言った兵士が、震えながら答える。

「言え」
成人なるひとさま、でございます」
「そのの立場は知っているか?」
「は、は……」

 兵士は、返事なのかどうか分からないような声を出した。視線はうろうろとさ迷う。

「言え」
「その。あの……」
「知らぬか?」
「いえ。その……」
「あの」

 もう一人の兵士が口を挟んだ。こちらは、昨日はいなかった人だ。

成人なるひとさまは、緋色ひいろ殿下の愛し子であられるとお伺い致しております」
「そうか」
「はっ」
 
 二人は包拳礼の姿勢を崩さず、もう一度頭を下げた。

「で、あれば、この入り口から入城するに、何の問題もないな?」
「いえ」

 否定が返ってきて驚いた。緋色ひいろも、ほう?と低い声を出す。

「皇族の方のみが使用可能であるとの明確な規定に則り、愛し子という立場の方にはご使用頂けません」

 昨日はいなかった兵士が、すらすらと述べる。もう一人も落ち着いてきた様子で、ぴしりと礼をして立っていた。

「愛し子という立場?愛し子ってのは何だ?伴侶とは違うということか?伴侶のことを愛し子と言い換えているのかと思ったが違うのか?」
「は。……いえ、そのようにお伺い致しております」
「へえ?誰に?」
「は、その、誰にというか、申し送りの文書に明確に記載されており……」
「その文書の作成者は?」
「そこまでは……」

 緋色ひいろから威圧のようなものが漏れ始めて、兵士たちはまた、すらすらと答えられなくなった。

「まずはその文書を見せろ」
「は?あ、いえ、近衛隊の機密文書にございますれば、その……」
「近衛隊の機密文書。だから何だ?お前たちが見ることができて、俺が見ることのできない文書が、この国にあったか?」

 鍛えていない者なら倒れてしまいそうな威圧に、二人の兵士は包拳礼のまま膝をついた。

「いえ、ございません」
「で、あるな」

 緋色ひいろだけではなく、後ろに立つ常陸丸ひたちまるからも、姿を見せたじいやからも、抑えきれない威圧が漏れて、二人は姿勢を保つので精一杯のようだった。
 緋色ひいろは扉を開けて、俺の肩を抱いたまま城へと足を踏み入れる。膝をついた二人の横を通るときに、低い声が告げた。
 
「良いか。成人なるひとは俺の伴侶だ。俺が死ぬまで、決して変わることはない」
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...