【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

29 動物園の案内係  緋色

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「ぞうー。元気か?」

 成人なるひとが嬉しそうに上げた声も、ぞうに届いているとは思えない。いつも通り、のしのしと歩いては立ち止まって、体の割りに細いしっぽをふるんふるんと振るだけだ。

「元気みたいだ」

 その動きだけで喜んだ成人なるひとは、隣に立つ壱臣いちおみに、にこにこと報告している。
 ほけっと口を開けていた壱臣いちおみが、そうですか、と答えた。
 そのまま二人で、ただ黙ってぞうを見ている。

「今日も大きいわねえ」

 乙羽おとわは黙って立つ二人の横で呟くと、早々にそこを離れた。
 ぞうがよく見えて、客の邪魔にならないいつもの場所に折り畳みの椅子を二つ並べた常陸丸ひたちまるが、

「じゃ。かばの所に挨拶に行ってきます」

 と、乙羽おとわを追いかける。
 ひらひらと手を振って椅子に座ると、あの……と控えめな声が聞こえた。

半助はんすけ。好きな所へ行って構わんぞ。護衛なら足りている」
「あ、はい……」
 
 ちらりと視線を送った先には、荘重むらしげが姿を見せていた。普段着で笑顔を浮かべていると、孫を連れてきたじいさまに見えなくもない。他にも一ノ瀬いちのせの気配がすることは、半助はんすけなら気付いているだろう。

「え、と。殿下はしばらくこちらに?」
「俺が、というか成人なるひとが動かんからな」
「はあ。あー、成る程。何となく分かります……」

 半助はんすけの視線の先には、成人なるひとと並んで、ぞうを見下ろす柵の前に立つ壱臣いちおみだ。あれも、一つ気に入ると動かないたちか。動物園は初めてなんだから、少々強引に連れ回して、色々と見てきた方がいいんじゃないか?

乙羽おとわはかばが好きらしい。餌やりができるからな。きりんの餌やりも行くと言っていたぞ」
「餌やり。ええですね」
「どちらもなかなかに迫力がある」

 入り口で手にしていた案内図を持って、半助はんすけ壱臣いちおみに近付く。

おみ。せっかくやから、色々と見て回らへんか?」
「あ、うん」
「ここのかばに餌やりができるらしい」
「かば」
「大きい口を開けて待ってるよ」

 成人なるひとが、案内図を見ながら説明を始める声が聞こえた。

「きりんも、餌をあげれるけど、可愛くない」
「え?きりん、可愛いやろ」
「んーん。近くで見るとあんまり……」
「そうなん?」

 説明する声に、笑いがこみ上げてくる。
 動物園には何回も来たが、そんなにあちこち回ってはいないだろ。だいたいがぞうを眺めて終わるってのに、一丁前に説明してやがる。

「行く?」
「ん。かば見たいかも」
「ちょっと怖い」
「そうなん?」

 相談がまとまったらしい。三人でぞうの前から歩き出した。
 珍しい。

緋色ひいろ、かばのとこ行くよー」

 振り返った成人なるひとが、おいでおいでとこちらに手を振る。
 はいはい。
 今日も楽しい一日になりそうだな。
 
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