【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

30 動物園は楽しい  成人

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 近寄って、えい、と投げた餌が口に入ったのに、かばは口を大きく開けたまま動きもしない。
 むう。俺の餌は小さすぎるとでも言うのか。

「腰が引けてるぞ」

 俺のお尻をぽんと軽く叩いた緋色ひいろも、手に持った餌をかばの口に入れたけど、やっぱりかばは口を開けたまま動かない。

「生意気な奴め」

 本当だ。
 緋色ひいろに知らん顔できるなんて、すごいな、かば。
 緋色ひいろは、何にもしていなくても、見かけた人が皆振り返るような人なんだぞ。格好いいからね!

おみ。も少し前に出んと餌が届かん」
「うち、こんくらいでええわ。半助はんすけ、餌あげてきて」
「せっかくやから一緒に行こ。な」

 半助はんすけが、へっぴり腰の壱臣いちおみを抱えてかばの前に出る。

「かばの口、大きいよね」

 場所をあけながら言うと、

成人なるひとくん、入ってしまいそうや」

 と、やっとちょっと笑った。壱臣いちおみが、かばからだいぶ離れた所から、えい、と投げた餌は、かばの口の端っこに当たって何とか中に入る。途端に、ばくん、とかばの口が閉じた。

「ひゃあっ」

 おかしな声を出して、壱臣いちおみ半助はんすけにしがみついた。
 食べた、食べた。

「あー、びっくりした。」

 うん。俺もびっくりした。
 二人で顔を見合わせて笑う。俺も、思わず緋色ひいろの腕を掴んでた。
 壱臣いちおみが一緒にいるのも楽しいな。壱臣いちおみは動物園が初めてだから、色々教えてあげられる。
 いつも緋色ひいろが連れて歩いてくれるから、動物園の案内図をじっくり見たことなかったけど、見ながら歩くの、面白い。
 
「あ。猿も餌やりしてる」
「一緒にあげますか?」

 飼育員さんが聞いてくれた。中に置いている餌の他にも、ご飯の時間は外から投げてあげていいんだって。
 
「する」
「うちはもう、餌やりはええです」
「ええ?やろう?猿はお口大きくない」
「うーん」

 見下ろす形の猿のおうちは、猿が山の形になってるとこに登ってもだいぶ遠いから、かばと違って怖くないと思うよ?
 
おみ。今日は何でもやってみよ。な?」

 今日はずっと笑ってる半助はんすけが、壱臣いちおみの腰を抱えてぐいぐいと歩く。今日はじいやがいるから安心して、壱臣いちおみのためにその手を使って。手が塞がってても大丈夫だからね。
 たくさんいる猿たちは、下に置かれた餌に群がっていたけど、そこから弾かれた小さいのや弱いのがいたので、その近くに届くように狙って餌を投げた。
 近くに餌が落ちて上手く食べれたのがいれば、それも取られてしまうのもいた。

「猿、餌が食べれないのがいる」
「余ったらもらえるだろ」
「そうか」
「そういうもんだ」

 動物園でも猿は大変らしい。

「あああ。またあの憎たらしいのが持ってった。うちはあの子にあげとんのに」

 壱臣いちおみも、なかなか餌にありつけない猿に一生懸命あげようとしてたみたいだ。
 うん。楽しそうで良かった!
 後で、きりんの餌やりもしようね。
 
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