602 / 1,325
第六章 家族と暮らす
37 私だけが知らない話 朱実
しおりを挟む
「力丸は?」
思わず聞いてから、はっと口をつぐむ。いないのなら休みだ。そんな当たり前のことを聞いてしまうとは。
「今日と明日は休みを頂いております」
「ああ」
泉門院弥壌が律儀に答えてくれるのがいたたまれない。素っ気なく返して溜め息を堪えた。昨日から護衛に付いている禅院武瑠が、大きな体をぴしりと伸ばしてその横に控えている。よく鍛えられた大きな体は、どうにも圧迫感があって得意じゃない。大きすぎない細身の方が好みだと伝えてはあるが、武に秀でた近衛隊では、そうそうたくさんはいないのだろう。強さには、それなりの筋肉が必要なようだ。
最近は、ごく近くに控える護衛は、弥壌と力丸、半助の三人で回してくれていたものだから、武瑠の大きな体と緊張感にどうにも慣れない。
更にこの忙しさと、離れてしまった緋色へ感じる不安。昨日は力丸の気安さに助けられていたが、弥壌には皇族へ自ら話しかけることなどできやしない。いや。誰も、昨日の力丸のように私へ話しかけることなどできないだろう。
緋色のそば近くで育ったからこそ、物怖じせずに皇族である私に話しかけることができ、距離感を違うことなく引くべき所で引いていく。それがなんと有り難かったことか。
それに気付いたところで、休みを取るなと言うわけにもいかない。細身で、皇族相手にも飄々と仕事をこなす半助もいない以上、弥壌だけが頼りだ。目尻の垂れた整った顔立ちは泉門院家の特徴で、武門であるのにどことなく優しさを滲ませていて、ほっとする。
「根を詰めるな。人手はたくさんあるのだから」
謁見室の控えの間で書類をめくっていれば、父の声が聞こえた。呼ばれては足を運ぶ移動時間が勿体なく思えて、こちらで書類を読むことにしたが、落ち着かない。
「ええ、もちろん。少し余裕はあるのですよ」
「そうか。なら、いいが」
話したそうな父の視線を感じたが、構わず手元の書類をめくった。九条斎作成の書類が目に留まる。昨日の日付で提出されているのに緋色の確認済み?
何故……?
一昨日の昼過ぎにはもう、離宮にいなかった。昨日は一日、動物園にいたのではなかったか。
そういえば、いきなりの行動であったにも関わらず、離宮に慌てた様子はなく、仕事に滞りも出ていない。前倒しで終わらせていたものを、日付だけ書いて提出した?
いや、ここのところ、私の仕事を手伝わせていたのだから、自分の仕事を前倒しにする余裕は無かったはずだ。斎が、度々体調を崩すことは知っている。三郎は有能だが、必ず斎か緋色に最終確認をしてもらわないと不安なようだから、三郎の個人仕事ということはあり得ない。
しばらく混乱していると、また父の声がした。
「そうだ。緋色に何か伝えたいことがあれば言いなさい。届け物も。最低でも一日一度はやり取りしているし、緋色は返事もちゃんと寄越すからね」
「…………っ!」
父は……。
いきなり出掛けた緋色の居場所を知っており、尚且つ連絡を取っている……!
思わず視線を向けた先で、父は、私の表情に訝しげに首を傾げていた。
思わず聞いてから、はっと口をつぐむ。いないのなら休みだ。そんな当たり前のことを聞いてしまうとは。
「今日と明日は休みを頂いております」
「ああ」
泉門院弥壌が律儀に答えてくれるのがいたたまれない。素っ気なく返して溜め息を堪えた。昨日から護衛に付いている禅院武瑠が、大きな体をぴしりと伸ばしてその横に控えている。よく鍛えられた大きな体は、どうにも圧迫感があって得意じゃない。大きすぎない細身の方が好みだと伝えてはあるが、武に秀でた近衛隊では、そうそうたくさんはいないのだろう。強さには、それなりの筋肉が必要なようだ。
最近は、ごく近くに控える護衛は、弥壌と力丸、半助の三人で回してくれていたものだから、武瑠の大きな体と緊張感にどうにも慣れない。
更にこの忙しさと、離れてしまった緋色へ感じる不安。昨日は力丸の気安さに助けられていたが、弥壌には皇族へ自ら話しかけることなどできやしない。いや。誰も、昨日の力丸のように私へ話しかけることなどできないだろう。
緋色のそば近くで育ったからこそ、物怖じせずに皇族である私に話しかけることができ、距離感を違うことなく引くべき所で引いていく。それがなんと有り難かったことか。
それに気付いたところで、休みを取るなと言うわけにもいかない。細身で、皇族相手にも飄々と仕事をこなす半助もいない以上、弥壌だけが頼りだ。目尻の垂れた整った顔立ちは泉門院家の特徴で、武門であるのにどことなく優しさを滲ませていて、ほっとする。
「根を詰めるな。人手はたくさんあるのだから」
謁見室の控えの間で書類をめくっていれば、父の声が聞こえた。呼ばれては足を運ぶ移動時間が勿体なく思えて、こちらで書類を読むことにしたが、落ち着かない。
「ええ、もちろん。少し余裕はあるのですよ」
「そうか。なら、いいが」
話したそうな父の視線を感じたが、構わず手元の書類をめくった。九条斎作成の書類が目に留まる。昨日の日付で提出されているのに緋色の確認済み?
何故……?
一昨日の昼過ぎにはもう、離宮にいなかった。昨日は一日、動物園にいたのではなかったか。
そういえば、いきなりの行動であったにも関わらず、離宮に慌てた様子はなく、仕事に滞りも出ていない。前倒しで終わらせていたものを、日付だけ書いて提出した?
いや、ここのところ、私の仕事を手伝わせていたのだから、自分の仕事を前倒しにする余裕は無かったはずだ。斎が、度々体調を崩すことは知っている。三郎は有能だが、必ず斎か緋色に最終確認をしてもらわないと不安なようだから、三郎の個人仕事ということはあり得ない。
しばらく混乱していると、また父の声がした。
「そうだ。緋色に何か伝えたいことがあれば言いなさい。届け物も。最低でも一日一度はやり取りしているし、緋色は返事もちゃんと寄越すからね」
「…………っ!」
父は……。
いきなり出掛けた緋色の居場所を知っており、尚且つ連絡を取っている……!
思わず視線を向けた先で、父は、私の表情に訝しげに首を傾げていた。
1,333
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる