【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

37 私だけが知らない話  朱実

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力丸りきまるは?」

 思わず聞いてから、はっと口をつぐむ。いないのなら休みだ。そんな当たり前のことを聞いてしまうとは。 

「今日と明日は休みを頂いております」
「ああ」

 泉門院せんもんいん弥壌みづちが律儀に答えてくれるのがいたたまれない。素っ気なく返して溜め息を堪えた。昨日から護衛に付いている禅院ぜんいん武瑠たけるが、大きな体をぴしりと伸ばしてその横に控えている。よく鍛えられた大きな体は、どうにも圧迫感があって得意じゃない。大きすぎない細身の方が好みだと伝えてはあるが、武に秀でた近衛隊では、そうそうたくさんはいないのだろう。強さには、それなりの筋肉が必要なようだ。
 最近は、ごく近くに控える護衛は、弥壌みづちと力丸、半助の三人で回してくれていたものだから、武瑠たけるの大きな体と緊張感にどうにも慣れない。
 更にこの忙しさと、離れてしまった緋色ひいろへ感じる不安。昨日は力丸の気安さに助けられていたが、弥壌みづちには皇族へ自ら話しかけることなどできやしない。いや。誰も、昨日の力丸のように私へ話しかけることなどできないだろう。
 緋色ひいろのそば近くで育ったからこそ、物怖じせずに皇族である私に話しかけることができ、距離感を違うことなく引くべき所で引いていく。それがなんと有り難かったことか。
 それに気付いたところで、休みを取るなと言うわけにもいかない。細身で、皇族相手にも飄々と仕事をこなす半助もいない以上、弥壌みづちだけが頼りだ。目尻の垂れた整った顔立ちは泉門院せんもんいん家の特徴で、武門であるのにどことなく優しさを滲ませていて、ほっとする。

「根を詰めるな。人手はたくさんあるのだから」

 謁見室の控えの間で書類をめくっていれば、父の声が聞こえた。呼ばれては足を運ぶ移動時間が勿体なく思えて、こちらで書類を読むことにしたが、落ち着かない。

「ええ、もちろん。少し余裕はあるのですよ」
「そうか。なら、いいが」

 話したそうな父の視線を感じたが、構わず手元の書類をめくった。九条さい作成の書類が目に留まる。昨日の日付で提出されているのに緋色ひいろの確認済み?
 何故……?
 一昨日の昼過ぎにはもう、離宮にいなかった。昨日は一日、動物園にいたのではなかったか。
 そういえば、いきなりの行動であったにも関わらず、離宮に慌てた様子はなく、仕事に滞りも出ていない。前倒しで終わらせていたものを、日付だけ書いて提出した?
 いや、ここのところ、私の仕事を手伝わせていたのだから、自分の仕事を前倒しにする余裕は無かったはずだ。さいが、度々体調を崩すことは知っている。三郎さぶろうは有能だが、必ずさい緋色ひいろに最終確認をしてもらわないと不安なようだから、三郎の個人仕事ということはあり得ない。
 しばらく混乱していると、また父の声がした。

「そうだ。緋色ひいろに何か伝えたいことがあれば言いなさい。届け物も。最低でも一日一度はやり取りしているし、緋色ひいろは返事もちゃんと寄越すからね」
「…………っ!」

 父は……。
 いきなり出掛けた緋色ひいろの居場所を知っており、尚且つ連絡を取っている……!
 思わず視線を向けた先で、父は、私の表情に訝しげに首を傾げていた。
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