【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
603 / 1,325
第六章 家族と暮らす

38 その人は紛れもなく皇帝だった  朱実

しおりを挟む
「どうした?ああ、お前はお前で緋色ひいろと連絡を取っていたか?赤璃あかりが私に、成人なるひとへの手紙を届けてほしいと頼んできたものだから、頻繁なやり取りはしていないのかと思ってな。余計なことを言ったな」

 いつも通り、どこか遠慮がちな言葉。この国で一番偉い立場にあるというのに、いや、だからこそなのか、決してはっきりした物言いをしない。自分の言葉で全てが決まってしまうことを恐れ、それはあってはいけないのだと思っている人。
 私に対してさえ、そうであることに苛々した時期は過ぎた。それでも、そんな皇帝の元でも国は磐石で、戦争にも負けなかった。相手が、全てを失うまで戦いを止めなかったがために、勝って得るものは少なかったが、大きく失うこともなく終えることができた。
 
赤璃あかりが、手紙を?」
「ああ。お前には頼まなかったのかな?」
「ええ……」

 私に頼んでも届かない、と判断したのだろう。

「そうか。しかし緋色ひいろも大人になったな。ちゃんと休暇届を出して、連絡がつくように算段して出かけるなんて」
「休暇届……」

 しみじみと言われた言葉に、引っ掛かる。

「ん?お前の所に連絡はいっていないのか?そんなわけは無いだろう」
「いえ。こんな忙しい時に休暇など困る、と休暇届を受理致しませんでした」
「私は受理したぞ。結婚休暇だそうじゃないか」

 緋色ひいろは休暇届を、私と父の両方に提出していたということか。私が受理しないと踏んで父にも提出していたというなら、父にだけ提出すれば済んだのではないのか?
 わざとそれぞれに出した?

「戸籍など、そう見るものではないからな。まさか私が保証人として署名した婚姻届を握りつぶされるとは、思ってもみなかったぞ」

 こちらを向く表情に変化はない。だが、声音には少し含みが感じられた。この人は、怒っているのだろうか。

緋色ひいろの婚姻届は、書き直したものが受理されたそうだ。保証人が私でないものを受理されてしまったことを、とても残念に思うよ」
「そうですか」

 私は、この人を侮っていたのかもしれない。皇帝となるための教育を受けないまま皇帝となり、御前会議でもほとんど発言することなく終える父を、何も決められない繋ぎの皇帝だと、どこかで思っていた。皇帝になるべく育てられた私に皇帝を引き継ぐまで、大きな変化なく国を導くことが役目の人なのだと。
 けれど、もう二十年以上もの間、皇帝なのだ。私が勉強したのと同じだけの年月、国を治めつつ学んできた皇帝であるのだ。
 決めるべきことは決めてきた。大きな変化なく国を導くという偉業を成し遂げてきた。
 その人が、保証人として署名した婚姻届。緋色ひいろを支える相手として成人なるひとを認めたもの。

成人なるひと緋色ひいろの相手であることは、お前にとってとても良いことだと思っていたのだがな」
「え……?」
「皇太子より人気のある英雄が弟であると、色々と大変だろう?あれが、自らに相応しい格の令嬢と婚姻を結んで子を成し、その有能ぶりを遺憾なく発揮していたら、良からぬことを考える輩も現れよう。だが、伴侶が成人なるひとならば、先が望めぬ。不埒なことを考える輩も、すぐに行動に移す気にはならぬだろう?成人なるひとは、緋色ひいろが望み、お前の邪魔にもならぬ素晴らしい相手だというのに」

 思わず目を見開いた私を、父の無表情が見ていた。

「つまらぬことで緋色ひいろを怒らせたものだ。いや、怒ってくれていればいいな?」
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...