【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
616 / 1,325
第六章 家族と暮らす

51 ただいま!  壱臣

しおりを挟む
壱臣いちおみさん、おかえりなさい。今日まで休んでいても良かったのに」

 気合いを入れて早起きして厨房に下りると、まだ外は薄暗いというのに、もう厨房にいた村次むらつぐくんが驚いたように迎えてくれた。

「ただいま。おはよう、村次むらつぐくん。村次むらつぐくんこそ早いなあ」
「俺はいつも通りですよ」
「うん。せやな」

 練習熱心なこの子は、空き時間を見つけては技術の習得を怠らない。見習わなあかんな、といつも思う。

「長いこと休んでごめんな」
「大丈夫です。俺もだいぶ出来ること増えてきましたし。それに広末ひろすえさん、元々一人でもここの調理全部してたんですよね?俺なんかの手伝いいるのかなって、時々不安になります」
「そんな……」
「いるに決まってんだろ」

 後ろから広末ひろすえさんの声がしてびっくりした。皆、早いなあ。村次むらつぐくんは、おはようございます、と普通に挨拶した。少し嬉しそうに口元が緩んどる。

「おはよう。壱臣いちおみさん、おかえり。今日は休んでてもいいんだぜ?」
「ただいま帰りました。長いこと休ませてもろて、すみません。手伝わせてください」

 広末ひろすえさんは、くっくっくっと笑う。

「人の作ったもんばっかり何日も食べるのは飽きたか?」
「いいええ。ええ体験やったよ。それに最後の方は朝食と夕食は作っとったし」
「なんだあ。旅先でも料理してたのか。休めねえなあ」

 広末ひろすえさんがけらけら笑う。村次むらつぐくんも米を計量しながら笑っている。

成人なるひとのため?」
「ああ、なる坊の食うもん無くなったか?」
「いいええ。実家の辺りに帰ったら、こちらでは手に入りにくい懐かしい食材やら、今までは高うて買えんかった食材やら見かけてしもて」
「ははは。そりゃ、手に入れたくなるな」
「それは作りますね」

 そう。そうなのだ。
 九鬼くきの領地で寝泊まりのための屋敷を貸してもろたら、綺麗で上等で誰も使てない厨房が付いていた。ずいぶんのんびりさせてもろたし、日にちが長くなってくると成人なるひとくんと乙羽おとわさんの旅行中の食事がちょっと心配になってくる。食べられるもんがようけあるわけやないから、どうしても偏ってしもてるなあ、と気になっていたのだ。朝食くらいうちが作ったらどうやろか、と聞いてみたら皆賛成してくれた。弐角にかくもえらい上等な食材を準備してくれたし、うちもやっぱり調理するんが楽しかった。
 九鬼くきに着いた翌日は、成人なるひとくんや乙羽おとわさんが猿回しを喜んだと聞いた弐角にかくの勧めで手妻てづまの舞台を観に行くことになったんやけど、出演者が羽織袴姿やと聞いてうちと半助だけ別行動にさせてもろた。どうもうちは、羽織袴の人に恐怖を感じとるようやと生松いくまつ先生に教えてもろてたから、避けることができて良かった。
 住んでたけど、町を歩いたことなんて無かったからちょうどええ。ぶらぶらと色んな所を、半助と二人で歩くだけでものすごう楽しかった。髪飾りを贈りあうなんて、恋人同士みたいなこともした。うわ、思い出しても照れるわ……。いやもう、恋人いうか、誓いを交わしとるから夫夫ふうふなんやけど……。

「何赤くなってんだ?」
「あ、いや。その」

 思い出してたら、つい。

「さっきの会話で何か照れるとこありましたっけ?」
「そりゃ新婚旅行なんだから、色々あるんだろうよ」
「はあ、そういうもんですか」
「そういうもんだ、なあ?」

 広末ひろすえさんと村次むらつぐくんが追い打ちをかけてくる。あああ、やめてえ。
 とにかく、話題を変えねば。

「い、市場で、色々仕入れて来ました!」
「おお!とっとと朝飯作ってしまうぞ!昼と夜の献立は変更かもな。色々試すぞ!」
「うわあ、楽しみですね!」

 なんて幸せな日々なんやろ。
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

処理中です...