【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

50 団らん  緋色

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 赤ん坊の顔も見たし、そろそろ帰って休みの最終日を満喫するかな。土産も渡したから潮時だろう。
 あまりにゆったりした空間で機嫌の良い成人なるひとを眺めていたら、眠たくなってきた。
 そこへ控え目なノックが響く。
 朱実あけみだったらすぐに部屋を出よう、と成人なるひとを膝の上に乗せる。大人しく座って、ん?と首を傾げる額にキスを一つ落としておく。嬉しそうに右目を細めている顔に満足した。お前は何にも気にしなくていい。すぐに立ち上がれるようにしただけだ。
 だが、朝桐あさぎりが連れてきたのは母上だった。早足でやってきた母は、

「なるひとちゃん……」

 と、呟いて立ち尽くしてしまう。少し涙ぐんでいるようだ。
 成人なるひとは俺の膝から下りて、礼儀正しく頭を下げた。

「母さま、こんにちは。お土産買ってきた」

 机に置いていた紙袋に手を入れてまた、和三盆の干菓子の箱を一つ取り出す。小さくとも大した値段がしたその干菓子、いくつ買ってきたんだ?小遣いが足りなければ頼ってほしいところだが、成人なるひとがそれをしないことはとっくに知っている。お金が無いなら仕事をすればいいんだと笑って、また仕事に精を出すのだろう。
 母は小さな箱を受け取った手で成人なるひとをしっかりと抱き締めた。成人なるひとは柔らかい顔でそれを受けとめている。

「寂しかったわ」
「俺も」
「風邪を引いている、と何度も聞いたけれど、もう元気?」
「うん、元気。金魚も元気?」
「ええ、とっても。また金魚に会いに来てね」
「行くー。母さまに会いに行って金魚に餌あげる」

 成人なるひとの言葉に、また母の涙腺は緩んだようだった。

「ありがとう。ごめんね、なるひとちゃん」
「何が?何がごめん?」
朱実あけみがあなたと緋色ひいろに酷いことをしたから。陛下の顔にも泥を塗ったわ。陛下の認めた婚姻を無効にするなんてありえない。緋色ひいろも本当にごめんなさい」

 母は、俺に対しても深々と頭を下げる。母に謝られてもな……。いや、朱実あけみの謝罪もいらないが。正直、もうどうでもいい。

義母上ははうえ、わざわざお越し頂き、ありがとうございます。まずはお座りください。お土産は、とても上品な干菓子ですのよ」

 俺が返事をする気が無さそうだと気付いた赤璃あかりが立ち上がり、母の手を引いて自分の隣に座らせた。すぐに茶が置かれて、赤璃あかりがふたを開けるとふわりと湯気が立ち上る。俺の隣に戻ろうとした成人なるひとを捕まえて、膝の上に乗せた。もう帰りてえなあ。

「なる。九鬼くきではどんな所に行ったの?」
手妻てづまの舞台見た。すごかった」
手妻てづま?いいなあ。前に一度見たことがあるわ。何も持っていない手を扇であおぐと紙吹雪が出たり、からの箱から鳥が飛び出したりするのでしょう?」
「そうそう。それでね、傘の上で鞠を幾つも回しても落ちないし、大きなお皿を棒一つでくるくるくるくる回しても落ちなくて……」

 まだしばらく、帰れそうにないな。



◇◇◇

手妻の舞台→マジックショー
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