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第六章 家族と暮らす
54 特別なお茶 朱実
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緋色は柔らかい顔で元の席に着くと、黙って座って成人の茶を待った。神妙な顔で私と緋色の前に茶を置く成人の動きを目で追って、ふと口元を緩ませる。
成人は真剣に作業を終えると、私たちに向かって頭を下げ、ワゴンを押して扉へと向かった。
え?
「いや、待て」
何だ?本当に茶を届けに来ただけ?それだけのために離宮からここまで?緋色は何故止めない?
「はい?」
きちんと返事をして振り返る成人。眉間に軽く皺を寄せる緋色。それらを見ると、呼び止めた私がおかしいかのような錯覚に陥る。そんなわけがない。何故、ここで茶を配っているのか聞くのは当然のことだろう?
「どうしてここに?」
「緋色と常陸丸にお茶を出しに来ました」
「わざわざ離宮から?」
「はい。あ、でも常陸丸は今日はお茶が飲めないから、あけ、あ、えーと、皇太子殿下に出し……お出し?するようにと言われたので、皇太子殿下にも出しました」
「そ、そうか」
これは、こんなに長く話すことができたのか。いつも、話し相手がだいたいのところを説明して、本人は頷いたりひと言ふたことを返して意志疎通している印象があったから驚いてしまう。言葉遣いはなんとも危ういが。
「もう帰るのか」
「はい。あ、でもまた来ます」
だから、何故?
何故わざわざここまで来たのかが分からない。
「こちらにも茶を出す者はいる。わざわざ来なくとも良い」
私の言葉に、んー、と考える様子が見えた。緋色は口を挟む気は無いらしい。澄まして茶を飲んでいる。
「俺の仕事は、お仕事してる人にお茶を出すことで」
仕事、ねえ。仕事をしたがった片手片目の子どもにできる仕事を、周りの者が何とか作り出したってところだろう。
「えーと。でも、皆にお茶を出すのはお仕事で、緋色には出したいから出してるからお仕事じゃなくて、んーと、だから……」
「俺に会いたくて来たんだろ?」
「あ、うん」
ふいに聞こえた緋色の声に成人が、にひゃと笑った。
「朝ね、緋色のお茶も用意しちゃって。でも、ああ、いなかったんだって思ったらちょっとかなしくなって」
「そうか」
かなしくなった?だから?だから何だ?
ちょいちょい、と緋色の手が動く。招き寄せるように少しだけ。ぱあと顔を輝かせた成人が、ワゴンを置いてととと、と近寄った。ソファに腰かけたままの緋色が慣れた様子で膝の上に抱き上げる。
「仕事場にお茶を届けたらいいじゃない?って乙羽が言って、そうしろ、そうしろって広末がポットにお茶を入れてくれたの」
「そうか」
「じいやが車で連れてきてくれて、半助も一緒に来た。ここに着いたら緋色いなかったけど、このお部屋にいて、お茶を出してないから出してほしいです、ってお願いされた」
「そうか」
たどたどしい説明を、目を細めて聞いている緋色。
緋色が側にいなくて元気のない子どもを見ていられなくて、離宮の者総出で緋色の元へ送り出したってことか?は?意味が分からない。この執務室の人間もそれに協力しているのか?
呆然と二人の様子を見ていると、次に続いた言葉に衝撃を受ける。
「今から帰るところだった。ちょっと待ってろ」
「許可できない!」
成人は真剣に作業を終えると、私たちに向かって頭を下げ、ワゴンを押して扉へと向かった。
え?
「いや、待て」
何だ?本当に茶を届けに来ただけ?それだけのために離宮からここまで?緋色は何故止めない?
「はい?」
きちんと返事をして振り返る成人。眉間に軽く皺を寄せる緋色。それらを見ると、呼び止めた私がおかしいかのような錯覚に陥る。そんなわけがない。何故、ここで茶を配っているのか聞くのは当然のことだろう?
「どうしてここに?」
「緋色と常陸丸にお茶を出しに来ました」
「わざわざ離宮から?」
「はい。あ、でも常陸丸は今日はお茶が飲めないから、あけ、あ、えーと、皇太子殿下に出し……お出し?するようにと言われたので、皇太子殿下にも出しました」
「そ、そうか」
これは、こんなに長く話すことができたのか。いつも、話し相手がだいたいのところを説明して、本人は頷いたりひと言ふたことを返して意志疎通している印象があったから驚いてしまう。言葉遣いはなんとも危ういが。
「もう帰るのか」
「はい。あ、でもまた来ます」
だから、何故?
何故わざわざここまで来たのかが分からない。
「こちらにも茶を出す者はいる。わざわざ来なくとも良い」
私の言葉に、んー、と考える様子が見えた。緋色は口を挟む気は無いらしい。澄まして茶を飲んでいる。
「俺の仕事は、お仕事してる人にお茶を出すことで」
仕事、ねえ。仕事をしたがった片手片目の子どもにできる仕事を、周りの者が何とか作り出したってところだろう。
「えーと。でも、皆にお茶を出すのはお仕事で、緋色には出したいから出してるからお仕事じゃなくて、んーと、だから……」
「俺に会いたくて来たんだろ?」
「あ、うん」
ふいに聞こえた緋色の声に成人が、にひゃと笑った。
「朝ね、緋色のお茶も用意しちゃって。でも、ああ、いなかったんだって思ったらちょっとかなしくなって」
「そうか」
かなしくなった?だから?だから何だ?
ちょいちょい、と緋色の手が動く。招き寄せるように少しだけ。ぱあと顔を輝かせた成人が、ワゴンを置いてととと、と近寄った。ソファに腰かけたままの緋色が慣れた様子で膝の上に抱き上げる。
「仕事場にお茶を届けたらいいじゃない?って乙羽が言って、そうしろ、そうしろって広末がポットにお茶を入れてくれたの」
「そうか」
「じいやが車で連れてきてくれて、半助も一緒に来た。ここに着いたら緋色いなかったけど、このお部屋にいて、お茶を出してないから出してほしいです、ってお願いされた」
「そうか」
たどたどしい説明を、目を細めて聞いている緋色。
緋色が側にいなくて元気のない子どもを見ていられなくて、離宮の者総出で緋色の元へ送り出したってことか?は?意味が分からない。この執務室の人間もそれに協力しているのか?
呆然と二人の様子を見ていると、次に続いた言葉に衝撃を受ける。
「今から帰るところだった。ちょっと待ってろ」
「許可できない!」
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