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第六章 家族と暮らす
55 分かっていた 朱実
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驚いた顔でこちらを向く成人を見て、つい声を荒げてしまったことを知る。
「あ、いや、すまない。緋色、帰られたら困る。ここで仕事をしてほしい」
「俺が旅行中に何か混乱が起きたとは聞いていない。何かあっても、離宮からならすぐに来られるから問題ない」
成人を抱き込んだ緋色の口調が戻っている。正直、他人行儀に丁寧に話されることに、ぞわぞわとした違和感しか感じていなかったので助かった。やっと話に応じてくれそうだ。
「お前の耳に入らないようにしていただけだ。色々とあった」
「いや、無かったろ」
迷いのない言葉。
そうだな。
何も無かった。いっそ何かあってほしかった。緋色がいなくては駄目なのだと騒ぎになるくらいのことが。
けれど、無かった。
私が、お前に居てほしかっただけ……。
「いなかったくせに、無かったと何故言い切れる?」
「人にしてることを、自分はされていないと思ってるのか」
「なに……?」
人にしてること?
「皇太子殿下の動向くらい、だいたい把握している」
「な……。一ノ瀬、か……?」
「当たり前。皇太子殿下が貸してくれたものだろう?有効活用させてもらってる」
「私の動向を私の部下が漏らす訳がない」
「安心しろ、漏らしてねえよ」
どういうことだ?
ぎゅっと自分の眉が寄ったのが分かった。
「側にいたら分かることも多いってことだ。あいつらが漏らさなくとも、察することができる。嫌なら離宮から引き上げさせろ。俺の周りをうろつくんじゃねえ。俺の動向など、掴ませたくないと思ったら排除するのは容易いんだ。うろついていたところでどうということもないから放っておいた。逆にそちらの動向も掴めるしな」
国一番の影集団相手に、言ってくれるじゃないか。だが、はったりとも思えない。緋色のもとには、軍最強の名を争う二人と当主を退いてなお影最強の男と……最速がいる。力丸はきっと、私と緋色が袂を分かつことになれば、迷いなく緋色に付くだろう。九鬼の領地で最強であった半助はすでに、成人の護衛として動いている。
緋色がその気になれば、緋色の動向が掴めなくなるというのは間違いない。一捻りで息の根を止められそうな成人も、気配を察する能力に衰えはないと聞いている。
「考えておく。だが、たとえ一ノ瀬を引き上げてもまた、別の者を離宮の護りに置くぞ」
「うるさい護衛は御免だ。うちは気配に敏い奴が多いから、雑な護衛を入れてくるようなら叩き出す。安眠妨害するような奴らはいらん。あと、一ノ瀬の引き抜きはする。直々に声をかけて、頷いてくれた者はうちで雇う」
「一ノ瀬を個人で?あれらは一枚岩だ。そんなことが出来るわけがな……い……」
言ってから気付いた。
そろそろ当主交代の時期だったとはいえ、当主だった人間があっさりと一ノ瀬から抜けて、緋色から給料を貰っていることに。
「俺はしっかり稼いでるからな。何人か雇う人間が増えたところで、問題ない」
とりつく島もない、とはこのことか。
確かに、ここのところの緋色の個人資産はすごい額になっている。毎年の、皇子としての国の予算の他に、戦争の功労者としての報酬が加わり、更に不具の者向けの衣類の開発に一役かっているので、売り上げに応じて開発料が入るようだ。不具の者向けの衣類専門店を立ち上げる際に出資もしており、そちらも売り上げに応じて報酬を受け取っている。
これらは本当は成人の名義で資産にしたかったようだが、手続きに時間がかかるので、ひとまず緋色のところに入れているらしい。
九鬼から連れてきた香油の店も順調らしく、こちらにも出資しているので収入がある。更に、そちらの地方にしか売っていない調味料などを売る店を作る計画もしている、と報告を受けている。
分かっている。分かっていた。だが、はっきりさせたくなかった。目を背けることはできない現実。
緋色は、本気になれば簡単に、私のもとから去ることができるのだ……。
「あ、いや、すまない。緋色、帰られたら困る。ここで仕事をしてほしい」
「俺が旅行中に何か混乱が起きたとは聞いていない。何かあっても、離宮からならすぐに来られるから問題ない」
成人を抱き込んだ緋色の口調が戻っている。正直、他人行儀に丁寧に話されることに、ぞわぞわとした違和感しか感じていなかったので助かった。やっと話に応じてくれそうだ。
「お前の耳に入らないようにしていただけだ。色々とあった」
「いや、無かったろ」
迷いのない言葉。
そうだな。
何も無かった。いっそ何かあってほしかった。緋色がいなくては駄目なのだと騒ぎになるくらいのことが。
けれど、無かった。
私が、お前に居てほしかっただけ……。
「いなかったくせに、無かったと何故言い切れる?」
「人にしてることを、自分はされていないと思ってるのか」
「なに……?」
人にしてること?
「皇太子殿下の動向くらい、だいたい把握している」
「な……。一ノ瀬、か……?」
「当たり前。皇太子殿下が貸してくれたものだろう?有効活用させてもらってる」
「私の動向を私の部下が漏らす訳がない」
「安心しろ、漏らしてねえよ」
どういうことだ?
ぎゅっと自分の眉が寄ったのが分かった。
「側にいたら分かることも多いってことだ。あいつらが漏らさなくとも、察することができる。嫌なら離宮から引き上げさせろ。俺の周りをうろつくんじゃねえ。俺の動向など、掴ませたくないと思ったら排除するのは容易いんだ。うろついていたところでどうということもないから放っておいた。逆にそちらの動向も掴めるしな」
国一番の影集団相手に、言ってくれるじゃないか。だが、はったりとも思えない。緋色のもとには、軍最強の名を争う二人と当主を退いてなお影最強の男と……最速がいる。力丸はきっと、私と緋色が袂を分かつことになれば、迷いなく緋色に付くだろう。九鬼の領地で最強であった半助はすでに、成人の護衛として動いている。
緋色がその気になれば、緋色の動向が掴めなくなるというのは間違いない。一捻りで息の根を止められそうな成人も、気配を察する能力に衰えはないと聞いている。
「考えておく。だが、たとえ一ノ瀬を引き上げてもまた、別の者を離宮の護りに置くぞ」
「うるさい護衛は御免だ。うちは気配に敏い奴が多いから、雑な護衛を入れてくるようなら叩き出す。安眠妨害するような奴らはいらん。あと、一ノ瀬の引き抜きはする。直々に声をかけて、頷いてくれた者はうちで雇う」
「一ノ瀬を個人で?あれらは一枚岩だ。そんなことが出来るわけがな……い……」
言ってから気付いた。
そろそろ当主交代の時期だったとはいえ、当主だった人間があっさりと一ノ瀬から抜けて、緋色から給料を貰っていることに。
「俺はしっかり稼いでるからな。何人か雇う人間が増えたところで、問題ない」
とりつく島もない、とはこのことか。
確かに、ここのところの緋色の個人資産はすごい額になっている。毎年の、皇子としての国の予算の他に、戦争の功労者としての報酬が加わり、更に不具の者向けの衣類の開発に一役かっているので、売り上げに応じて開発料が入るようだ。不具の者向けの衣類専門店を立ち上げる際に出資もしており、そちらも売り上げに応じて報酬を受け取っている。
これらは本当は成人の名義で資産にしたかったようだが、手続きに時間がかかるので、ひとまず緋色のところに入れているらしい。
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分かっている。分かっていた。だが、はっきりさせたくなかった。目を背けることはできない現実。
緋色は、本気になれば簡単に、私のもとから去ることができるのだ……。
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