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第六章 家族と暮らす
64 悪口 成人
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「まあ……」
俺たちのいる部屋に一人で入ってきた赤璃さまは、俺の横に膝をついて、ソファで眠る朱実殿下をじっと見た。
「ひどい顔……」
緋色とおんなじこと言ってる。
「私にまで分からないようにするなんて酷いわ」
赤璃さまの手がそっと伸びて、朱実殿下の目の下の黒いとこを親指で撫でた。そういう赤璃さまも、あんまり元気じゃない。でも、これは仕方ないんだ。赤ちゃんのお世話をする女の人は、お休みできなくて大変だから。
「朱音殿下は?」
「玉乃井に任せてきたから大丈夫よ。玉乃井は、朱音のお世話をするのが仕事なの」
それなら安心。一緒にいたいけど、朱音殿下はまだ、ふにゃふにゃだから、あんまり動かさない方がいいもんね。
「医師には?」
「まだ」
「呼んで」
「いいのか?」
「こんな場所で、こんな体勢で寝てるなんて初めて見たわ。気を失ってるのではなくて?」
赤璃さまが緋色を振り返る。向かいのソファに座る緋色は、あまり赤璃さまの方を見ずに、返事だけしてる。
「常陸丸」
緋色は、扉の近くに真っ直ぐ立っている常陸丸を、声だけで呼んだ。
「俺の見立てでは、寝ていると思います。でもまあ、赤璃殿下の許可を得たんで、医師を呼んできます」
「簡易ベッドをここに入れることはできる?」
すぐに出ていこうとした常陸丸を赤璃さまが呼び止める。
「相談してきます」
「ありがとう、お願い。なる、朱実のこと、もう少しだけ看ててね」
そして赤璃さまは、緋色の横に座った。
「兄弟喧嘩の一つもすればいい、と思ってはいたわ。少々感情的になっても、それぞれの気持ちを伝えあえるなら、お互いに相手の気持ちが分からないままそっぽを向くよりましなんじゃないかと思ったの」
「そうか」
「でも、私が思っていたのは話をすることよ。暴力で人は分かり合えないと思うわ」
「だろうな」
「じゃあ、何で?」
「人でない者との婚姻を認められなかった、と聞こえたときには殴ってた」
赤璃さまが、はっとこちらを向いたのが分かる。俺は、朱実殿下を看てるから二人の顔は見えない。でも、気配は感じてしまう。
「……ごめんなさい」
「お前には関係無い」
「朱実の認識を変えられなかったことを……謝罪させて」
「朱実の認識は朱実のもので、誰かが何とかできるものじゃない」
「それでも。あなたたちを傷付けたわ」
「傷付けたのは緋色でしょ」
振り返って言ったら、びっくりしてる顔の赤璃さまが見えた。
「違いない」
にやっと緋色が笑う。朱実殿下が起きたら、緋色がごめんなさいしてよね。
「何で、あなたたち?」
「なるのことを人でないと言ったのでしょ?酷い悪口だわ」
「悪口……」
「誰かのことを悪く言ったり、貶めたりすることよ」
「ふーん」
俺に人でないと言うのは、悪口になるのか。おとしめていることになるのか。おとしめているって何だ?後で辞書で調べよう。
あ。
「人でなかったって言えば、悪口じゃなかったのにねえ」
「…………」
「………………」
緋色は眉の間にぎゅう、と皺を寄せて黙ったし、赤璃さまは何かを言おうと口を開いて、また閉じた。
「俺が拾った時からずっと、お前は人だったぞ」
じゃあ俺は、緋色の前ではずっと人だ。
それは何だか嬉しくて、くふ、と声が出た。
ああ、だから。
だから緋色はいつも、俺を人でないと扱う人に怒るのか。赤虎や忍部博士や睦峯、三条の人、朱実殿下。
間違ってるし、悪口になるから。
何だろう。
嬉しい。
俺たちのいる部屋に一人で入ってきた赤璃さまは、俺の横に膝をついて、ソファで眠る朱実殿下をじっと見た。
「ひどい顔……」
緋色とおんなじこと言ってる。
「私にまで分からないようにするなんて酷いわ」
赤璃さまの手がそっと伸びて、朱実殿下の目の下の黒いとこを親指で撫でた。そういう赤璃さまも、あんまり元気じゃない。でも、これは仕方ないんだ。赤ちゃんのお世話をする女の人は、お休みできなくて大変だから。
「朱音殿下は?」
「玉乃井に任せてきたから大丈夫よ。玉乃井は、朱音のお世話をするのが仕事なの」
それなら安心。一緒にいたいけど、朱音殿下はまだ、ふにゃふにゃだから、あんまり動かさない方がいいもんね。
「医師には?」
「まだ」
「呼んで」
「いいのか?」
「こんな場所で、こんな体勢で寝てるなんて初めて見たわ。気を失ってるのではなくて?」
赤璃さまが緋色を振り返る。向かいのソファに座る緋色は、あまり赤璃さまの方を見ずに、返事だけしてる。
「常陸丸」
緋色は、扉の近くに真っ直ぐ立っている常陸丸を、声だけで呼んだ。
「俺の見立てでは、寝ていると思います。でもまあ、赤璃殿下の許可を得たんで、医師を呼んできます」
「簡易ベッドをここに入れることはできる?」
すぐに出ていこうとした常陸丸を赤璃さまが呼び止める。
「相談してきます」
「ありがとう、お願い。なる、朱実のこと、もう少しだけ看ててね」
そして赤璃さまは、緋色の横に座った。
「兄弟喧嘩の一つもすればいい、と思ってはいたわ。少々感情的になっても、それぞれの気持ちを伝えあえるなら、お互いに相手の気持ちが分からないままそっぽを向くよりましなんじゃないかと思ったの」
「そうか」
「でも、私が思っていたのは話をすることよ。暴力で人は分かり合えないと思うわ」
「だろうな」
「じゃあ、何で?」
「人でない者との婚姻を認められなかった、と聞こえたときには殴ってた」
赤璃さまが、はっとこちらを向いたのが分かる。俺は、朱実殿下を看てるから二人の顔は見えない。でも、気配は感じてしまう。
「……ごめんなさい」
「お前には関係無い」
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「それでも。あなたたちを傷付けたわ」
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「悪口……」
「誰かのことを悪く言ったり、貶めたりすることよ」
「ふーん」
俺に人でないと言うのは、悪口になるのか。おとしめていることになるのか。おとしめているって何だ?後で辞書で調べよう。
あ。
「人でなかったって言えば、悪口じゃなかったのにねえ」
「…………」
「………………」
緋色は眉の間にぎゅう、と皺を寄せて黙ったし、赤璃さまは何かを言おうと口を開いて、また閉じた。
「俺が拾った時からずっと、お前は人だったぞ」
じゃあ俺は、緋色の前ではずっと人だ。
それは何だか嬉しくて、くふ、と声が出た。
ああ、だから。
だから緋色はいつも、俺を人でないと扱う人に怒るのか。赤虎や忍部博士や睦峯、三条の人、朱実殿下。
間違ってるし、悪口になるから。
何だろう。
嬉しい。
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