【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

73 緋色と母さま  成人

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 アイス、美味しい。
 ほんの少しだから、眺めてたらあっという間に溶けていく。慌てて口に入れた今日のアイスは、初めてあめを食べたときみたいな美味しい味だった。
 生まれて初めて食べたあめ。覚えてる。
 常陸丸ひたちまるがくれたあめは、幸せな味がした。俺は長生きしたから、たくさんのあめも、あめじゃない美味しいものもいっぱい食べたし飲んだけど、あのあめが一番美味しかったってことは、死ぬまで忘れない。
 常陸丸ひたちまる緋色ひいろの護衛で友達で従者で、本当に良かったなって、いっつも思ってる。だって緋色ひいろは甘いものを食べないから、あめも食べないから、常陸丸ひたちまるがいなかったら、俺はあめを知らないまま死んだかもしれない。
 それでも、緋色ひいろが側にいてくれるならそれで、とても幸せに死ねたことは間違いないけれど。でも、知ってしまったらどうしても甘いのが好き。緋色ひいろの横で甘いものを食べるのが、一番幸せだ。
 本当はお腹いっぱいだったけど、アイス食べたかったから、入るって言っちゃった。だって、アイスだ。寒いときは、緋色が絶対にくれないアイス。

「家のなかは暖かいんだから、いいじゃないっすか」

 って、広末ひろすえが言ってくれても、もらえない。

「過保護」

 って、力丸りきまるが言ったら、

「過保護で結構」

 と笑う。
 ごめん、成人なるひと。こりゃ無理だ、と力丸りきまるが言って、皆で笑った。
 温かいおやつも色々あるから、それはそれで美味しかった。冬も、美味しい食べ物はいっぱいある。
 それでも俺は、冷たくてとろってしてるものが好きだから、アイスが好きなんだよなあ。
 それで、お腹いっぱいだけど、入るって頑張ってみた。アイス、食べたかった。準備してる間にも、お腹に隙間ができるかもしれないしね。
 もらってみたら入った!アイス、すごい。もうお腹いっぱいだーって思ってたのに、普通に食べられる。美味しい。
 
「命令だから、朱実あけみさんと話すの?」

 食べ終わって、口のなかに残ってる味が幸せだなって思っていたら、母さまの声がした。母さまの前に置かれたアイスは、俺よりたくさんなのに、食べないまま溶けかけている。

「ええ」
「家族でしょう?」
「信用できない人に、心を許して話すことはできません」

 信用できない人……、と父さまが小さく呟いたけど、緋色ひいろに向かって話したのは母さまだった。

「……謝った、と聞いたわ」
「皇太子殿下は、何を謝ったんでしょうね」
「それは、緋色ひいろさんが怒っている内容についてよ。それ以外の何に謝るの?」
「なら、成人なるひとの悪口を俺の前で言ったことについて?」
「詳しいことは、知らないけれど……。謝罪は受け入れたのでしょう?受けたのならいつまでも腹を立てているのは、大人げないと思いませんか?」

 俺が、初めて会った時から見ていた母さまとは少し違っている。声が強い。
 緋色ひいろは、熱いお茶を一気に飲み干してから、はあ、と言った。

「腹なんて立ててません。どうでもいい。先ほど気付いたんですが、どうでもいいってのは、嫌いだと思うよりもっと、自分の中に居ない状態なんですね。なのでご安心ください。子どもっぽく嫌ってもおりません」
「…………」
「な、何を言っているのか分からないわ。あなたは昔からそう。私が分からないことを言って誤魔化そうとする」
 
 父さまは、悲しそうにこちらを見ていたけど、何も言わずに口を閉じた。母さまは立ち上がって大きな高い声を出した。

雫石しずく。落ち着きなさい。アイスクリームは食べないのか?」
「陛下にだって分かりませんでしょう?この子は、いつもいつもそうなの。そうして何でもうやむやにして逃げるんだわ」

 えーと。
 俺もよく分からなかったけど、こんなに怒らなくても、説明してって言えばいいと思うの。
 何でこんなに怒っちゃったのかな。

「私には、分かったよ。君は、何が分からないんだ?」

 父さまは、悲しそうな顔のままで母さまに言った。
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