【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
639 / 1,325
第六章 家族と暮らす

74 俺が緋色の  成人

しおりを挟む
「あなたまで、そうやって誤魔化そうとするのね?」
「いいや。あまり説明したいものでもないのだが、君に必要なら説明しよう。その代わり、しっかり聞くと約束してくれ」
「いつだって、聞いています。ちゃんと聞いてるわ」
「では座って。アイスクリームを一口食べるか、茶を飲んで落ち着きなさい」

 俺も説明聞きたい。

「俺ら、もう出ようか」

 背筋を伸ばして座っていると、緋色ひいろが言った。
 え?説明は?

「私の説明が正しいか、聞いていてくれないか。緋色の気持ちを間違ってはいけない」
「別に、どう取ってもらっても構わないが」
「いいや。私は、お前にはまだ、朱実あけみと喧嘩ができるくらいの情がある、と思っていた。まったくの間違いだったようだ。朱実あけみのことを信用できない人、と言ったことにも驚いている」

 父さまは、静かに言った。ゆっくりとしゃべった。

「できない。信用できるわけがない。朱実あけみは、正式な手続きを踏んだ書類を受理していなかった。陛下も認可した書類をだ。二年も隠しておいていざ指摘すれば、不備があったから差し戻そうと思って忘れていた、といつもの笑顔で言いやがった。発覚しないように様々に手を回していたくせに、だ。これから先、仕事の書類でも同じことがあるかもしれないじゃないか」
「ああ、その通りだ。私が認可した書類を受理せず、しかも忘れていたと言うなら処罰対象だな。朱実あけみには、私からもしっかりと話を聞こう。約束する」

 父さまは、緋色ひいろに頷いてから、座ってお茶を飲んでいる母さまの方を向いた。

「さて、よく聞きなさい。緋色ひいろはこのように言ったんだ。朱実あけみに対して、何の感情もいだいてはいない、と」
「どういうことですの?」
「好きでも嫌いでもなく、怒りを覚えるほど、対象のことを考えたりもしていない、ということだ。だから、朱実あけみに怒ったりしない。怒るような激情はない」
「家族、でしょう?そんなことがありますか」
「家族としての情はどうなのかな?」

 父さまは少し緋色ひいろの顔を見た。緋色ひいろは、軽く肩をすくめた。

「どうして?どうしてそんな酷いこと」
「酷いかい?」
「だって家族ですわ」
「家族とは何かな」
「最も近しい間柄じゃありませんか!」
緋色ひいろと君は、最も近しいかい?」
「あ、あ、当たり前です」
「分かった。君はそう思っているんだね。でも、緋色ひいろはどうだろう」
「は、母親が近しくなければ、誰が近しいと仰るのです?」

 最も近しいってどういうことだろう。
 家族、は分かる。一緒に暮らしている好きな人のこと。乙羽おとわに教えてもらった。俺の家族は離宮の皆だ。緋色ひいろもそうだよね。俺たちは、家族と暮らしている。皆のことが大好きだ。
 父さまや母さまも、一緒に暮らしてないけど、緋色ひいろの家族?
 あ、あれか。血の繋がりのある人?
 前に、乙羽おとわの家族だと名乗る人がいた。変なことを言ってきてとても困っていた。だって、家族なんだから乙羽おとわの命を捨てて別の家族の命を救えと言うんだ。意味が分からなかった。
 乙羽おとわがもう、結婚の誓いを済ませてて良かったよ。そうでなければ、一緒に住んでる好きな人より血の繋がりのある人が家族として優先されるらしいからね。結婚の誓いをしていたら、血の繋がりが無くても家族の一番になれる。だから、乙羽おとわの家族は常陸丸ひたちまる、そして俺たちだって胸を張って言えたんだ!
 つまり、今、俺は言っていい。

「俺!俺が緋色ひいろの家族!」
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...