【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
638 / 1,325
第六章 家族と暮らす

73 緋色と母さま  成人

しおりを挟む
 アイス、美味しい。
 ほんの少しだから、眺めてたらあっという間に溶けていく。慌てて口に入れた今日のアイスは、初めてあめを食べたときみたいな美味しい味だった。
 生まれて初めて食べたあめ。覚えてる。
 常陸丸ひたちまるがくれたあめは、幸せな味がした。俺は長生きしたから、たくさんのあめも、あめじゃない美味しいものもいっぱい食べたし飲んだけど、あのあめが一番美味しかったってことは、死ぬまで忘れない。
 常陸丸ひたちまる緋色ひいろの護衛で友達で従者で、本当に良かったなって、いっつも思ってる。だって緋色ひいろは甘いものを食べないから、あめも食べないから、常陸丸ひたちまるがいなかったら、俺はあめを知らないまま死んだかもしれない。
 それでも、緋色ひいろが側にいてくれるならそれで、とても幸せに死ねたことは間違いないけれど。でも、知ってしまったらどうしても甘いのが好き。緋色ひいろの横で甘いものを食べるのが、一番幸せだ。
 本当はお腹いっぱいだったけど、アイス食べたかったから、入るって言っちゃった。だって、アイスだ。寒いときは、緋色が絶対にくれないアイス。

「家のなかは暖かいんだから、いいじゃないっすか」

 って、広末ひろすえが言ってくれても、もらえない。

「過保護」

 って、力丸りきまるが言ったら、

「過保護で結構」

 と笑う。
 ごめん、成人なるひと。こりゃ無理だ、と力丸りきまるが言って、皆で笑った。
 温かいおやつも色々あるから、それはそれで美味しかった。冬も、美味しい食べ物はいっぱいある。
 それでも俺は、冷たくてとろってしてるものが好きだから、アイスが好きなんだよなあ。
 それで、お腹いっぱいだけど、入るって頑張ってみた。アイス、食べたかった。準備してる間にも、お腹に隙間ができるかもしれないしね。
 もらってみたら入った!アイス、すごい。もうお腹いっぱいだーって思ってたのに、普通に食べられる。美味しい。
 
「命令だから、朱実あけみさんと話すの?」

 食べ終わって、口のなかに残ってる味が幸せだなって思っていたら、母さまの声がした。母さまの前に置かれたアイスは、俺よりたくさんなのに、食べないまま溶けかけている。

「ええ」
「家族でしょう?」
「信用できない人に、心を許して話すことはできません」

 信用できない人……、と父さまが小さく呟いたけど、緋色ひいろに向かって話したのは母さまだった。

「……謝った、と聞いたわ」
「皇太子殿下は、何を謝ったんでしょうね」
「それは、緋色ひいろさんが怒っている内容についてよ。それ以外の何に謝るの?」
「なら、成人なるひとの悪口を俺の前で言ったことについて?」
「詳しいことは、知らないけれど……。謝罪は受け入れたのでしょう?受けたのならいつまでも腹を立てているのは、大人げないと思いませんか?」

 俺が、初めて会った時から見ていた母さまとは少し違っている。声が強い。
 緋色ひいろは、熱いお茶を一気に飲み干してから、はあ、と言った。

「腹なんて立ててません。どうでもいい。先ほど気付いたんですが、どうでもいいってのは、嫌いだと思うよりもっと、自分の中に居ない状態なんですね。なのでご安心ください。子どもっぽく嫌ってもおりません」
「…………」
「な、何を言っているのか分からないわ。あなたは昔からそう。私が分からないことを言って誤魔化そうとする」
 
 父さまは、悲しそうにこちらを見ていたけど、何も言わずに口を閉じた。母さまは立ち上がって大きな高い声を出した。

雫石しずく。落ち着きなさい。アイスクリームは食べないのか?」
「陛下にだって分かりませんでしょう?この子は、いつもいつもそうなの。そうして何でもうやむやにして逃げるんだわ」

 えーと。
 俺もよく分からなかったけど、こんなに怒らなくても、説明してって言えばいいと思うの。
 何でこんなに怒っちゃったのかな。

「私には、分かったよ。君は、何が分からないんだ?」

 父さまは、悲しそうな顔のままで母さまに言った。
しおりを挟む
感想 2,501

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...