646 / 1,325
第六章 家族と暮らす
81 緋色の未来のために 朱実
しおりを挟む
「お義父さま。こんなにのんびりしていらして、大丈夫なのですか?」
寝室で朱音に授乳していた赤璃が顔を出し、驚きの声を上げた。居室での礼は不要、と父は常に述べている。赤璃はいつでも休める格好のまま、気負いもせずに私の隣に腰を下ろした。
私は、先ほどの父の言葉をぐるぐると頭の中で回している。
私は、どのような着地を考えていたのか……。
「朱音は?」
「お腹がふくれて、寝てしまいましたわ」
「そうかそうか。顔を見ても良いかな?」
「ええ、もちろんです」
相好を崩した父が、いそいそと立ち上がる。赤璃もまた、案内のために立ち上がった。
何となく共に立ち上がって、その後を付いていく。
赤ん坊用のベッドで、どこかふてくされたような顔で眠る朱音を父がにこにこ、にこにこと見つめる。赤璃はそんな父を笑って見ていた。
「緋色は、戦場でおかしくなってしまった」
ああ。頬が痛い。
口をあまり開けずに話す声は、自分でも聞き取りにくかった。
「壊れた戦闘人形を持ち帰ってきて、必死になおそうとしている。戦闘人形が目を開けない間、付きっきりでほとんど寝ていないから、緋色の体調が心配なほどだ、と報告が上がる度に、戦場へと送り出したことを後悔した」
いつの間にか父が、真剣な顔で私を見ていた。
「私は、失敗したのだと悟った。戦地は、大切な緋色がおかしくなるような場所だった」
あれを、緋色が大切に大切にするほど、私の後悔は深まっていった。すぐに壊れてなくなると思った戦闘人形は、周囲の懸命の手当てで修復し、日ごとに緋色との仲を深めていく。止めると思っていた常陸丸まですっかりと丸め込まれている様子を淡々と知らせる報告書は、私が失敗したのは間違いないと伝えてくるかのようだった。
戦争は終わった。
緋色の手柄で。
英雄として、広く称えられ始めた弟が狂ってしまったことを知られてはならない。戦争へ行く前の緋色を取り戻すにはどうするか。
「戦闘人形がいなければ……。いなければ緋色は……。けれど、排除できなかった。その存在が知れ渡った今となっては、あれがいなくなった後にせめて、伴侶であった証拠などが残らないようにして、綺麗な戸籍のまま新しい伴侶を迎えられるように、と」
口に出してみると、何もおかしなことは無いように思えた。
戦場で狂った緋色が正気に戻る日を待ち、その日の後に、なるべく瑕疵の無いようにと思っただけ。それだけのことだ。
「お前が握りつぶしたのは、私も認めた書類であったのだがな」
「それについては、誠に申し訳なく……」
素直に頭を下げると、父の溜め息が降ってきた。
「朱実。本心から思っておらぬことで謝罪を口にしても、相手には届かぬのだ」
「は?」
「分からぬか……」
「いえ。私は本当にこの度のことは、陛下に申し訳なく思っております」
「そうか」
父は、謁見室で見せる顔で私を見て頷いた。
寝室で朱音に授乳していた赤璃が顔を出し、驚きの声を上げた。居室での礼は不要、と父は常に述べている。赤璃はいつでも休める格好のまま、気負いもせずに私の隣に腰を下ろした。
私は、先ほどの父の言葉をぐるぐると頭の中で回している。
私は、どのような着地を考えていたのか……。
「朱音は?」
「お腹がふくれて、寝てしまいましたわ」
「そうかそうか。顔を見ても良いかな?」
「ええ、もちろんです」
相好を崩した父が、いそいそと立ち上がる。赤璃もまた、案内のために立ち上がった。
何となく共に立ち上がって、その後を付いていく。
赤ん坊用のベッドで、どこかふてくされたような顔で眠る朱音を父がにこにこ、にこにこと見つめる。赤璃はそんな父を笑って見ていた。
「緋色は、戦場でおかしくなってしまった」
ああ。頬が痛い。
口をあまり開けずに話す声は、自分でも聞き取りにくかった。
「壊れた戦闘人形を持ち帰ってきて、必死になおそうとしている。戦闘人形が目を開けない間、付きっきりでほとんど寝ていないから、緋色の体調が心配なほどだ、と報告が上がる度に、戦場へと送り出したことを後悔した」
いつの間にか父が、真剣な顔で私を見ていた。
「私は、失敗したのだと悟った。戦地は、大切な緋色がおかしくなるような場所だった」
あれを、緋色が大切に大切にするほど、私の後悔は深まっていった。すぐに壊れてなくなると思った戦闘人形は、周囲の懸命の手当てで修復し、日ごとに緋色との仲を深めていく。止めると思っていた常陸丸まですっかりと丸め込まれている様子を淡々と知らせる報告書は、私が失敗したのは間違いないと伝えてくるかのようだった。
戦争は終わった。
緋色の手柄で。
英雄として、広く称えられ始めた弟が狂ってしまったことを知られてはならない。戦争へ行く前の緋色を取り戻すにはどうするか。
「戦闘人形がいなければ……。いなければ緋色は……。けれど、排除できなかった。その存在が知れ渡った今となっては、あれがいなくなった後にせめて、伴侶であった証拠などが残らないようにして、綺麗な戸籍のまま新しい伴侶を迎えられるように、と」
口に出してみると、何もおかしなことは無いように思えた。
戦場で狂った緋色が正気に戻る日を待ち、その日の後に、なるべく瑕疵の無いようにと思っただけ。それだけのことだ。
「お前が握りつぶしたのは、私も認めた書類であったのだがな」
「それについては、誠に申し訳なく……」
素直に頭を下げると、父の溜め息が降ってきた。
「朱実。本心から思っておらぬことで謝罪を口にしても、相手には届かぬのだ」
「は?」
「分からぬか……」
「いえ。私は本当にこの度のことは、陛下に申し訳なく思っております」
「そうか」
父は、謁見室で見せる顔で私を見て頷いた。
1,246
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる