【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

82 似て非なるもの  朱実

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「何故、緋色の婚姻届を受理しなかったのかについてのお前の考えは分かった。一理あろう。成人なるひとは皇族の伴侶としての条件を何一つ満たしておらぬからな」

 顔のおもてに何の感情も乗せずに話す父は、このところ、家族の前でよく見せる本来の姿を完全に隠している。

「さて、あちらに戻ろう。朱音あかねの可愛い寝顔も見られたしな」

 可愛い寝顔、と言った時だけ父の声が少し緩んだ。
 ふと思い出すのは、ごくごく小さな頃のこと。住まいはまだこの皇城ではなかった。で暮らしていた。当たり前のように侍従や侍女や護衛、使用人はいたが、父と母、赤虎おとうととの距離は近かった。父は、様々な表情を見せながら私たちとよく遊んでくれた。父と共に積み木を積み上げて喜ぶ私と、高く積み上がると倒しにくる小さな赤虎せきとら
 倒されることまで含めて遊びで、倒れる積み木にきゃあ、と悲鳴をあげて逃げることさえ楽しかった。その楽しさを教えてくれたのは父だった。にこにこと見守る母がいた。そんな時があった。
 住まいが皇城に移ってから、父や母と遊ぶどころか会うことさえ難しくなり、自分も赤虎せきとらも勉強の時間ばかりとなった。環境に慣れるのに必死で、自分で時間を見つけて食事時以外に家族に会おうとすることができた頃には、赤虎せきとらは私の言葉を否定ばかりするようになっており、全く会話にならなかった。
 父は次第に表情を失くし、母は、病んだ……。
 城に住まいを移してから生まれた緋色おとうとだけが、会いたいときに会えて気を使わずに話せる唯一の人間となった。
 緋色ひいろが学校に通うようになってからは緋色ひいろが家出を繰り返し、なかなか会うことが難しくなったが、それでも心を許せる唯一の家族だと私は思っていたのだ。私のたっての頼みで戦場にまで出てくれた緋色ひいろを、これからは手放しで甘やかすつもりだった。

「私は、私の頼みを聞き入れ戦場に出てくれた緋色ひいろが無事に帰ってきたなら、緋色ひいろが願うことで叶えられる願いはすべて叶えようと決めていた」

 ソファに腰を落ち着けた父が放った言葉は、私の思いと同じに聞こえた。

「だから、皇族から抜けたいと言えば抜けさせたし、成人なるひとを伴侶にしたいと言えば賛成した」

 皇族で無くなれば、家族として今までのように気安く関われなくなってしまう。緋色ひいろが私に臣下としてしか接してくれないなど嫌だった。

「戦争を終結させた英雄が皇子であるより、臣下である方が良い。下手に力のある家門と縁を結ばれるより、何の条件も満たしていなくとも、本人の望む相手と仲睦まじくおってくれる方がよい。それが、子を為せぬならなお良い」

 父の言葉が正しいなら、緋色ひいろを皇族に戻し成人なるひととの婚姻を認めなかった私が間違っていたことになる。
 私が、間違って……。

緋色ひいろは今、とても幸せそうだ。私は、成人なるひととの仲を認めた私を褒めてやりたいと考えているくらいだよ」

 父は、微かに笑った。
 父の認めた婚姻を結んだ緋色ひいろは幸せそうに見えるという。
 私が、緋色ひいろの幸せを願ってした行動は、この頬の痛みとなって返ってきた。
 緋色ひいろにしてやりたかったことは、父と同じだった筈なのに……。

 
 
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