【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

99 緋色の声に耳を傾ける  朱実

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灯可とうかは、ずいぶんと雰囲気が柔らかくなりましてね。妻と驚いております」
「はは。なんだそりゃ」
「なんと言えば良いのか、こう、いつも緊張しているような所がある子だったのですが、その、緊張感が和らいだというか、本当に話しやすくなりまして」
「へえ。いいんじゃないか」

 灯可とうかが?
 いつも冷静だったあの子どもが、正月の集まりで子どもらしく成人なるひとに懐く様子が不快だったことを思い出す。
 もうすっかり仲良くなってしまったのだろうか。人と人の相性とは、全くもって不可解だ。

「ところで、母上は何故突然お伺いしたのか御存知ですか?」
「ああ。一口カステラを食べたかったらしいな」
「一口カステラ。ああ、あの初回の時のお土産ですか!」
「甘いやつだ」
 
 まったくもう、と呆れた笑いを溢す朱可しゅか緋色ひいろは機嫌良く笑いを返す。
 しばらくその顔を正面から見ていないな……。
 緋見呼ひみこ叔母上も灯可とうかと共に離宮へ遊びに来ていた、という報告書は読んだが、詳しい経緯は分からなかった。一口カステラか。離宮の新しい菓子を灯可とうかがとても気に入ったから、余っている分を袋に詰めて土産として持たせた、という報告もあったな。叔母上もその菓子のことを耳にしたのか。聞いてすぐに、食べてみたい、と離宮に乗り込んでしまうとは相変わらず身軽なことだ。
 聞いたことの無い菓子。離宮の食べ物は、大変に美味なことが多い。私も食べてみたいものだ。きっと赤璃あかりがねだれば、成人なるひとが届けてくれるだろう。それを私が食べたなら、あれは不快に思うだろうか。いや。美味しかったか、と尋ねてきそうな気がする。

「その時は別の菓子を持って帰って来ましたが」
「だから叔母上は、次も来るって言ってらしたぞ。あの日の菓子は一口カステラじゃ無かったからな」
「うわ、なんというご迷惑な。母上は相変わらずで誠に申し訳ない。もし本当にご迷惑なら仰ってください。私なりに説得を試みますので」
「はは。それ、説得は無理だと言っているな」
「バレましたか」
「迷惑はしていない。成人なるひとが楽しいならそれでいい」
「ありがとうございます。一口カステラはとても美味しかったです」
「そちらからの手土産も、工夫を凝らした菓子が多くて、うちの料理人たちが喜んでいる」
「そうなんですか。そういえば灯可とうかが遊びに行く日は、料理人たちが昼休憩も取らずに菓子を作っていたと妻が言っていたような……」
「お互いに相手の土産が刺激になったんじゃないか」 
「それは楽しそうですね」
「たこ焼きの鉄板を購入するなら店を紹介するから言え」
「たこ焼き!誕生日会の日の食べ物ですね。興奮した見可みかの説明を聞いた私の中では、何やら手妻てづまで作られる得体の知れない食べ物になっておりますよ。たこの足が中から出てくるとか」
「ははははは。あいつ、興奮し過ぎて凄かったな」
「ええ。次の日、熱を出したらしいですよ。緋椀ひまりが呆れておりました」
「また今月の誕生日会が楽しみだ。見可みかの生まれ月だろう?都合がつくなら一緒に来たらいい」
「そうですね。是非ともたこ焼きの正体を見てみたく思います。お邪魔してもよろしいですか」
「ああ」

 とても楽しそうな会話が続いていく。私も生まれ月なのだが、参加の申し込みは聞いてもらえるだろうか……。
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