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第六章 家族と暮らす
98 報告書では分からない話 朱実
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「緋色殿下」
一条朱可が緋色に話しかけ、隣に腰を下ろした。五月の御前会議の昼休憩。会議室近くの畳部屋に、城の料理人の手による昼食が運ばれてきた。会議に参加していた各家の代表たちが昼食を食べようと各自腰を下ろして、食事が並ぶのを待っている。
席順に特別な決まりが無いのを良いことに、その話が聞こえる場所に何気なく腰を下ろす。多分、最近離宮に入り浸っている灯可の話だろう。
珍しく緋色は、昼食を食べに離宮へ帰らなかったようだ。
「お付き合い頂き、ありがとうございます」
「ああ」
どうやら、ゆっくりと話したかった朱可が緋色を昼食に誘ったらしい。
「このところ、うちの子がすっかり成人さまのお世話になってしまって、すみません。ありがとうございます」
「ああ。あいつも喜んでいるから気にするな」
「そう言って頂けると助かります。たまには灯可もお友達と遊んでおいで、と言ったことがまさかこんなことになるとは思いもよらず、妻も一度、成人さまと緋色殿下にお礼を言いに伺いたいと言っておりまして」
「本当に気にしなくていい。先週は叔母上が来ていたから、まあ、挨拶は済んだことにしとけ」
「聞きました……。母上まで押し掛けるとは全く。やはり一度、正式に成人さまに謝罪と礼をせねば」
「いや、謝罪はおかしいだろ。いいから放っておけ。うちに来たからといって、何をしてるわけでもない。二人だけだと静かに勉強しているか本を読んでいるか、らしいぞ。何やら二人で話した内容は夜に語ってくれたが、まあ、大したことじゃなかった。灯可は字が綺麗だとか、灯可は頑張ってて偉いだとか褒めてたな。同じ本を読んでいたことが分かったら、どこの場面が好きか、どの登場人物が好きかで話が盛り上がったんだと。まあ、大人しいもんだ。けど先日は、叔母上が様々な遊び道具を持参して、らしくない大騒ぎだったと聞いた。その日は成人が、疲れて風呂に入らず寝てしまったからな」
「あ、うちもです。見可ならともかく、灯可が夕食後にソファで寝こけていましてね。いくら声を掛けても起きないので、諦めてそのままベッドに寝かせました。初めてかもしれません。朝、目覚ましが鳴るより早く目覚めた本人が、一番驚いていましたよ」
「ははは。その驚いた顔を見てみたかったな」
緋色の楽しげな笑い声に部屋の中の視線が集まるが、緋色も朱可も気にした様子なく、食事をしながら話している。皆の視線が集まったのも少しのことで、すぐにそれぞれの会話相手との話に戻ったようだった。
見渡せば、七条緋椀と八条宝の隣に九条三郎が行儀よく座って食事をしている。居心地は悪くないようで落ち着いていた。
「それにしても、我が子を褒めて頂けて嬉しいことです」
朱可の機嫌の良い声は続いていく。
一条朱可が緋色に話しかけ、隣に腰を下ろした。五月の御前会議の昼休憩。会議室近くの畳部屋に、城の料理人の手による昼食が運ばれてきた。会議に参加していた各家の代表たちが昼食を食べようと各自腰を下ろして、食事が並ぶのを待っている。
席順に特別な決まりが無いのを良いことに、その話が聞こえる場所に何気なく腰を下ろす。多分、最近離宮に入り浸っている灯可の話だろう。
珍しく緋色は、昼食を食べに離宮へ帰らなかったようだ。
「お付き合い頂き、ありがとうございます」
「ああ」
どうやら、ゆっくりと話したかった朱可が緋色を昼食に誘ったらしい。
「このところ、うちの子がすっかり成人さまのお世話になってしまって、すみません。ありがとうございます」
「ああ。あいつも喜んでいるから気にするな」
「そう言って頂けると助かります。たまには灯可もお友達と遊んでおいで、と言ったことがまさかこんなことになるとは思いもよらず、妻も一度、成人さまと緋色殿下にお礼を言いに伺いたいと言っておりまして」
「本当に気にしなくていい。先週は叔母上が来ていたから、まあ、挨拶は済んだことにしとけ」
「聞きました……。母上まで押し掛けるとは全く。やはり一度、正式に成人さまに謝罪と礼をせねば」
「いや、謝罪はおかしいだろ。いいから放っておけ。うちに来たからといって、何をしてるわけでもない。二人だけだと静かに勉強しているか本を読んでいるか、らしいぞ。何やら二人で話した内容は夜に語ってくれたが、まあ、大したことじゃなかった。灯可は字が綺麗だとか、灯可は頑張ってて偉いだとか褒めてたな。同じ本を読んでいたことが分かったら、どこの場面が好きか、どの登場人物が好きかで話が盛り上がったんだと。まあ、大人しいもんだ。けど先日は、叔母上が様々な遊び道具を持参して、らしくない大騒ぎだったと聞いた。その日は成人が、疲れて風呂に入らず寝てしまったからな」
「あ、うちもです。見可ならともかく、灯可が夕食後にソファで寝こけていましてね。いくら声を掛けても起きないので、諦めてそのままベッドに寝かせました。初めてかもしれません。朝、目覚ましが鳴るより早く目覚めた本人が、一番驚いていましたよ」
「ははは。その驚いた顔を見てみたかったな」
緋色の楽しげな笑い声に部屋の中の視線が集まるが、緋色も朱可も気にした様子なく、食事をしながら話している。皆の視線が集まったのも少しのことで、すぐにそれぞれの会話相手との話に戻ったようだった。
見渡せば、七条緋椀と八条宝の隣に九条三郎が行儀よく座って食事をしている。居心地は悪くないようで落ち着いていた。
「それにしても、我が子を褒めて頂けて嬉しいことです」
朱可の機嫌の良い声は続いていく。
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