【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
663 / 1,325
第六章 家族と暮らす

98 報告書では分からない話  朱実

しおりを挟む
緋色ひいろ殿下」

 一条朱可しゅか緋色ひいろに話しかけ、隣に腰を下ろした。五月の御前会議の昼休憩。会議室近くの畳部屋に、城の料理人の手による昼食が運ばれてきた。会議に参加していた各家の代表たちが昼食を食べようと各自腰を下ろして、食事が並ぶのを待っている。
 席順に特別な決まりが無いのを良いことに、その話が聞こえる場所に何気なく腰を下ろす。多分、最近離宮に入り浸っている灯可とうかの話だろう。
 珍しく緋色ひいろは、昼食を食べに離宮いえへ帰らなかったようだ。

「お付き合い頂き、ありがとうございます」
「ああ」

 どうやら、ゆっくりと話したかった朱可しゅか緋色ひいろを昼食に誘ったらしい。

「このところ、うちの子がすっかり成人なるひとさまのお世話になってしまって、すみません。ありがとうございます」
「ああ。あいつも喜んでいるから気にするな」
「そう言って頂けると助かります。たまには灯可とうかもお友達と遊んでおいで、と言ったことがまさかこんなことになるとは思いもよらず、妻も一度、成人なるひとさまと緋色ひいろ殿下にお礼を言いに伺いたいと言っておりまして」
「本当に気にしなくていい。先週は叔母上が来ていたから、まあ、挨拶は済んだことにしとけ」
「聞きました……。母上まで押し掛けるとは全く。やはり一度、正式に成人なるひとさまに謝罪と礼をせねば」
「いや、謝罪はおかしいだろ。いいから放っておけ。うちに来たからといって、何をしてるわけでもない。二人だけだと静かに勉強しているか本を読んでいるか、らしいぞ。何やら二人で話した内容は夜に語ってくれたが、まあ、大したことじゃなかった。灯可とうかは字が綺麗だとか、灯可とうかは頑張ってて偉いだとか褒めてたな。同じ本を読んでいたことが分かったら、どこの場面が好きか、どの登場人物が好きかで話が盛り上がったんだと。まあ、大人しいもんだ。けど先日は、叔母上が様々な遊び道具を持参して、らしくない大騒ぎだったと聞いた。その日は成人なるひとが、疲れて風呂に入らず寝てしまったからな」
「あ、うちもです。見可みかならともかく、灯可とうかが夕食後にソファで寝こけていましてね。いくら声を掛けても起きないので、諦めてそのままベッドに寝かせました。初めてかもしれません。朝、目覚ましが鳴るより早く目覚めた本人が、一番驚いていましたよ」
「ははは。その驚いた顔を見てみたかったな」

 緋色ひいろの楽しげな笑い声に部屋の中の視線が集まるが、緋色ひいろ朱可しゅかも気にした様子なく、食事をしながら話している。皆の視線が集まったのも少しのことで、すぐにそれぞれの会話相手との話に戻ったようだった。
 見渡せば、七条緋椀ひまりと八条たからの隣に九条三郎さぶろうが行儀よく座って食事をしている。居心地は悪くないようで落ち着いていた。

「それにしても、我が子を褒めて頂けて嬉しいことです」

 朱可しゅかの機嫌の良い声は続いていく。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

処理中です...