【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

14 やっと分かった  成人

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「なるちゃんと乙羽おとわちゃんを心配して来たのに、あの馬鹿息子があ」

 青葉あおばは、まだぶつぶつと言いながら俺の部屋に来た。

「ごめんよ、なるちゃん。お勉強が遅くなったね」
「んーん、いいよ。乙羽おとわも呼んでくる?」
「ああ。いいよ、いいよ。さっき出会ったよ。お仕事してたね。大丈夫そうだから、お昼にお話しようかな」
「ん、分かった」

 俺たちは、お願いします、と頭を下げて机の前に座る。

「俺、心配?」

 青葉あおばがさっき言ってたことが気になったから、教科書を開く前に聞いてみる。
 なるちゃんと乙羽おとわちゃんを心配して来たのに、って青葉あおばは言った。
 何で?

「お葬式、初めてだろ?」
「うん」
「だから、心配だった」
「初めてだから?」
「そう。皆で亡くなった人を悼む儀式なんて、したこと無いんじゃないかと思ってね」

 毎日たくさんの人が命を落として、自分もいつそうなるか分からない場所にいた。物心ついた時からそうだった。誰か一人、側から居なくなったって、いちいち儀式をしない。戦場へ送られる前にも俺は見たことがないし、戦場では尚更、そんなことしてる余裕はない。命を失くした生物はそこら中に打ち捨てられて、転がっていた。
 俺が奪った命も、たくさん。
 あの人達にも、一人一人に、いなくなったことを泣く人が居たんだろうか。
 思わず、頭に右手を置く。
 そうか。
 あの一人一人に……。

「俺、吉野よしのがもう動かなくて悲しかった」
「うん」
「俺が動けなくした人にも、悲しむ人がいた?」
「そうだね」
「そうかあ」

 右手を見る。
 失くなった左の腕を見る。
 この手が、悲しいをたくさん生んだ。

「そうしたのは、なるちゃんだけじゃない。常陸丸ひたちまるも、緋色ひいろ殿下も、兵士たちは皆、そうやって生き延びたんだ。そのことで思い悩んだりはしないで。もちろん、忘れてはいけない。けれど、仕方のないことだったと折り合いもつけないといけない。だって、なるちゃんは生きている。まだまだ人生は続いていくのだから、苦しんで苦しんで生きたりするのは違う。戦争だから、生きるためにしなくてはいけないこともあった。言えるのは一つ。こんな悲しみをたくさん生む戦争なんてものは、もう二度としちゃいけない」

 うん。
 そうだ。
 人を殺しちゃいけない、傷付けてもいけない、と教えてもらった日のことを俺は覚えている。青葉あおば力丸りきまるの言葉の意味を、あの時の俺は、よく分かっていなかった。
 その後も、しちゃいけないんだな、と覚えていただけだった。
 どうして駄目なのか、よく分かったよ。
 悲しいから。
 そのたった一人がいなくなることで、悲しむ人がいるから。
 俺も。
 俺も、長生きしなきゃいけない。
 約束したから、だけじゃなく、きっと緋色ひいろが悲しむから。
 俺は、やっと本当に、色々な言葉の意味を知った。吉野よしのがいなくなって、はじめて分かった……。


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