【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

118 落着  緋色

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「好きにしろ。だが、この家に置くことはない」

 佐鳥さとりが、娘の物と思われる鞄を、ソファの後ろから娘の目の前に差し出した。
 うちから出す準備も万全だな。

「ひっ」

 急なことに、娘が悲鳴を上げる。混乱しているのだろう。今までは、せめてその事象が何故起こったかの確認くらいはしていた。一応、ただ震えるだけの女では無いのだと示して見せていた。
 だが今、それを取り繕える余裕もなく、短い悲鳴を喉から零す。恐る恐る振り返る動きにもキレがない。

「あの。下働きを、します。それで構いません」
「それすら、役に立たん」
「う。あ……」
「役に立っていると思っていたのか?給金を払うどころか、衣食住の代金を請求したいくらいだぞ」
「殿下。払わせてくださいませ」

 六車むぐるまが震える声を上げる。
 いや、いらん。そこまでけちなことは言わないから、帰ってくれ。そんな金があるなら、弐角にかくのために使え。

「昔から、人の話を聞かんところがあると、自分に都合の悪いことには耳を塞ぐ子やと気付いてはおりながら、人より優秀である故にその場を凌いでしまい、ここまで大きくなってしまいました」
「で、あるな」

 身分も高いとなれば尚更、己の価値を高く見積もる。周りもそう扱う。俺も、そうならぬ様に気をつけるとしよう。たまに不敬の輩を見ると、身が引き締まる。滅多に会うことは無いが。
 自分への不敬はさして気にならぬが、成人なるひとへの不敬はどうにも腹が立つ。うちの者が成人なるひとを気安く扱うのと、よその者が成人なるひとを軽く見ることは、傍から見て同じに見えても大きく違う。
 、許せるものでは無い。
 俺へ敬意を向けるのであれば、俺が選んだ、俺の最も大切な存在へもそれを向けろ。少なくとも、軽んじるべきではない。

「大切に六車むぐるまへ閉じ込め外へは出さぬか、名字を捨てさせ家から出すか、しかと決断せよ」
「は、は……」

 まさかまだ、六車むぐるまの名を持たせたまま、野に放つつもりだった訳ではあるまいな?

「俺は、俺の伴侶への不敬を決して許さぬ。今回は、伴侶のとりなしで猶予があったのだと心得よ。それでも下げられぬ頭に構うほど暇ではない。友人の伴侶の命もかかっていた。生半可な措置では許さぬ」
「ははっ!」

 この場は、九鬼くきを守った重鎮であるこの男を信じよう。
 包拳礼で頭を下げる姿だけ確認して、部屋を後にする。
 それにしても、性差の違いか?あの娘の思考は、一ミリたりとも理解できなかった。
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