【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

8 味の保証はしない指南書  成人

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「……貴様とて、何も書いてはおらんだろう」

 安次嶺あじみねが、声の大きい人を睨む。

安次嶺あじみねさんがしていらっしゃらないのに、私だけがメモを取っておれば、また、そんなことも分からないのかって怒られるかと思いまして。寮に帰ってから、必死で思い出して書いていたんですよ」

 ほら、とポケットから小さな手帳が出てきた。声の大きい人は体も大きい。なのに、小さい手帳に小さい文字が並んでいて、ちょっと面白かった。
 また、って言うってことは、いつも言われてるんだなあ。メモを取って怒られるの?え、なんで?メモ、すごくいいよ?俺もしょっちゅうメモしてるよ?

「か、書けておるなら、もう研修は終わっておるではないか!何故、まだこちらにおりたいなどと……」
「思い出して書いているんだし、広末ひろすえさんも村次むらつぐさんも壱臣いちおみさんも手が早くて、なかなかしっかりと手元を見るのが難しいんです。ほんの少し、一つ前の作業に気を取られていたら、次の作業が終わってしまっているんですよ?一回二回で、分かるものじゃありませんって。自分の書いたものが、正しいかどうかの確認もしたいですし」

 ちょっと待って。広末ひろすえ村次むらつぐが早いっていうのは何となく分かるんだけど、壱臣いちおみも?壱臣いちおみも早いの?本当に?誰かと間違ってない?壱臣いちおみが早かったところ、俺は見たことないよ?
 何となく、すぐ側にいる壱臣いちおみを見上げてしまう。

「どしたん?」

 壱臣いちおみが俺の方を向いて、にこーって笑う。
 ほら、全部にのんびりのおまじないが掛かってない?こう、話す早さとかもさ。のんびりに聞こえてしまうというか……。

壱臣いちおみも早い?」
「あっはっは」

 ちょっと、ん?ってなってから壱臣いちおみが笑い出した。広末ひろすえも近くで、ぶって吹き出している。半助は顔をそむけたけど、笑ってるのが見えている。

「うちかて、料理する時はこう、半助みたいに素早くなるんよ」

 壱臣いちおみはそうやって言いながら、両手を交互にしゅっ、しゅっと前に出した。

「なんの体操?」

 あれかな?夏の長い休みに灯可とうか見可みかがやっていた、ラジオの音楽に合わせてする体操かな?そんな動きあったっけ?

「えええ?これは、あれやん。敵を倒す体術?みたいな?」
「倒れないと思う」
「あかんかー」
「うん。あかん」

 俺も、ふふふって笑った。
 半助みたいに素早くは無理だけど、料理してる壱臣いちおみは、特別に早く動けているのかもしれない。俺は、そう見えたことはなかったけど、そうなのかも?

「ぶっ、ふふっ。ははは。なる坊と壱臣いちおみさんは、今日も仲良しだな。はは。あー、公里くりさん?」

 大笑いした後で、広末ひろすえが声の大きい人、公里くりに話しかける。

「はい!」
「うちでは、メモを取るのは良いことだって言われてるぞ。大いにメモを活用して頑張ってくれ。なる坊や三郎さぶろうさん、村次むらつぐ東那とうなも、皆メモ魔だ」
「はい!ありがとうございます!」

 公里くりが嬉しそうに言った。

「それから、安次嶺あじみねさん用に、時間を見つけて作り方も書いてみることにするよ。あんたはそれを持って、城に帰ってくれて構わない。ただ、その指南書には、味の保証はしないって一筆入れさせてもらうぞ」

 安次嶺あじみねが、ますます眉間に皺を寄せた。

「味の保証のない指南書など……」
「俺らは、どちらでも構わねえ」
「とりあえず、書いてもらおうか」
「分かった。壱臣いちおみさん、手間だけどそれでいいか?」
「かまへんよ。けど、うちも、味の保証はせえへんって一筆入れさせてもらう」
「……」

 うん?話はついた感じ?
 
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