【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

15 配達人のはずでした  成人

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 ご飯を食べてから、もう一度、お城の厨房へ出かけた。大事な書類を矢渡やとに届けるのだ。俺は今、お手紙配達のお仕事中。他にも、お城に届ける手紙があれば、預かってくれば良かったかな。ま、いいか。寄り道してると遅くなる。
 ふふん。喜んでもらえると分かっているお手紙を届けるのは、とても楽しい仕事だなあ。俺、配達人もやろうかな。

「車は出さなくていいのか?」
「いらない」

 また、ついてきてくれる村次むらつぐが言う。大丈夫だよ?お城までなんて大した距離じゃない。こんなの、何回行き来しても平気だ。いい運動だ。皇子様の緋色ひいろだって、すたすた歩いて行っちゃう距離だ。朱実あけみ殿下は、車のことが多いけど。

「そうか」
「うん」

 村次むらつぐも、緋色ひいろの口ぐせ移った?俺もたまに言っちゃう。格好良いよね、緋色ひいろ

「ま、好きにしろ。眠くなったら、衣装部の仮眠室を借りればいい」
「寝ない」
「はいはい」

 お昼寝は、最近あんまりしない。お昼寝しないと、夜に早く眠たくなるけど、昼にたくさん起きていられる方が、色々できて嬉しい。

「私の腕の問題では無い!」

 たどり着いた厨房からは、大きな声が聞こえてきた。

「おお。予想通り、揉めてるな」
「予想通り?」
「そっ。俺の予想通り。どうする?入る?」

 村次むらつぐは、気配を薄くして厨房の扉の前に立っている。気付く料理人なんていないと思うけど、念の為。俺も真似をした。うーん、悩む。揉めてるところに首を突っ込みたくないけれど、嬉しいお手紙を少しでも早く矢渡やとに渡したい。村次むらつぐの予想通りなのなら、聞いてから行けば、まあいっか。

「どんな予想?」
矢渡やとさんのだし巻き玉子が褒められて、それを聞いた安次嶺あじみねさんが、広末ひろすえさんや壱臣いちおみさんの教え方が悪いから自分は失敗したんだ、と言う。矢渡やとさんが、あのお二人を悪く言うのは許せないって怒って反論。で、安次嶺あじみねさんの方が矢渡やとさんより立場が上だろうから、生意気な口を叩くな、とか言って脅しをかける。でも、矢渡やとさんは、尊敬するお二人の悪口だけは許せないから、反論をやめない」
「おお……」

 教え方が悪かったら、矢渡やとも失敗してるんじゃない?おかしくない?

「皇妃殿下は、本日の矢渡やとの作成した品を、非常に喜んで食された。それが答えだ」
「偶然、上手くいっただけでしょう?指南書通りに作成して、作る者によって味が違うことがおかしい。離宮の者の教え方に、問題がある!碌々文字も書けぬようなやからに、人にものを教えることなど無理な話だったのだ」

 すぱん、と厨房の扉を開けた。文字を書くのが苦手な壱臣いちおみが、それでも頑張って書いた指南書。書けと言われて、時間をかけて丁寧に書いたもの。なのに、それを見て、文字も碌々書けぬようなやからとか言うの?
 難しい言葉で言われても、大体分かる。今のは、矢渡やとじゃなくても許せない。

「挨拶なんていらない!」

 俺を見て、慌てて立ち上がろうとする人たちに大きい声を出した。ちょっと掠れちゃうのが悔しい。

「教わる気がないから、安次嶺あじみねは、教えてもらってもできないんだ!」

 
 
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