【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

14 頑張ってる人は  成人

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 矢渡やとの作っただし巻き玉子は、小さく切って皆で味見した。
 皆というのは、その日の昼ご飯を離宮で食べた人たちのこと。仕事でいなかった人も多くて、そんなにたくさんの人はいなかったけど、だし巻き玉子を一つしか貰ってきていなかったから、とても小さな一口づつだった。

「ん。うまい」

 広末ひろすえが言った。

「うん。合格や」

 壱臣いちおみも言った。

「習得、早すぎだろ。俺が、どんだけ苦労したと思って……」

 村次むらつぐが、ぶつぶつ言った。

「はは。流石は、お城の料理人だ」
「お城の料理人……ね。安次嶺あじみねさんは昨日、皇妃殿下にお出ししたと聞きました。皇妃殿下は、これも似ていて美味しいけれど、私はまた、披露宴の時のだし巻き玉子が食べたいわ、と仰ったそうですよ?」
「ああー」
「ああー」

 広末ひろすえ壱臣いちおみは、おんなじような声を上げて、顔を見合せる。俺、分かるよ。安次嶺あじみねは、すぐ帰っちゃったから、本物をあんまり知らないんだよね。矢渡やとは、広末ひろすえ壱臣いちおみのことをよく見て、手伝って、本物を味見していた。たくさん練習した。お城の料理人でも、どこの料理人でも、本物をしっかり見て食べて練習しないと、おんなじに作るのは難しいんじゃないかな。……広末ひろすえは、すぐ作っちゃうけど。
 俺も食べてみた。いつもの壱臣いちおみのだし巻き玉子の方がもう少しだけふわふわな気がするけど、でも、本当にそっくりで、黄色くて、噛むとじゅわっと出汁が出てきて優しい味がした。
 これならきっと母さまは、美味しいって言ってる。披露宴で食べた卵焼きだね、って喜んでるんじゃないかな。後で、聞きに行こう。
 矢渡やとにも、合格出たよって言ってこよう!
 お昼ご飯は、少し残して緋色ひいろに怒られた。ほんのひと口、ご飯の前にだし巻き玉子を食べただけなのに、何でもう入らないんだ?と俺が俺のお腹に聞きたい。

「ったく、お前は」
矢渡やとのだし巻き玉子、先に味見したから」
「たったこんだけを先に食べて、お腹膨れてんじゃねえよ」

 今、ご飯と一緒に食べれば良かったのかも。しまった。厨房に届けて、すぐに味見しちゃった。
 緋色ひいろは、熱いお茶を飲みながら、ん?と言った。

「研修に来てた奴のことは、公里くりと呼んでいなかったか?」
公里くりがいっぱいいた」
「ああ。代々、料理人の家か。城に何人かいるのなら、かなりの名門なんだな」
「ふーん」
「子どもの頃から、修行してるんだろ」
「へええ」

 あ。だから、志雄しおは、村次むらつぐに言っていたのか。幼い頃から修行した訳でもない者がって。村次むらつぐは、一ノ瀬の修行をしていたから、料理の修行はしていない。でも、修行して三年で免許を取ったから、凄い。
 
「皆、すごい。偉い」
「そうだな」

 小さな頃から頑張ってる人も、大きくなってから頑張ってる人も、頑張ってる人はみんな、偉い!
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