【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

18 すっきり  成人

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 村次むらつぐは、素早い。あっという間に、料理を作りに行っちゃった。矢渡やとも大急ぎで村次むらつぐの後を追いかける。他の人は、緋色ひいろが、礼は受けた、と言ったから包拳礼を解いたけれど、立ったまま顔を見合せていた。
 緋色ひいろは、このままここに居るみたいだ。俺の座っていた椅子に座った。緋色ひいろの後ろから付いてきていた常陸丸ひたちまるが、何か書類を緋色ひいろに渡す。
 あれ?

常陸丸ひたちまるも入れるの?」
「ん?なんだ?」
「お城の厨房は、調理師免許無いと入れないって」
「俺が入ったら、常陸丸ひたちまるも入るだろ」
「そうか」
「当たり前だ」

 そうなのか。なら俺も、お仕事お休みの村次むらつぐにお願いするんじゃなくて、半助はんすけを連れてきても良かったのか?

「護衛入れる?」
「ああ。だが、半助はんすけは連れてこなくて正解だぞ」
「なんで?」

 緋色ひいろは、俺が半助はんすけのこと考えてたって、よく分かったなあ。

「だし巻き玉子は、壱臣いちおみのメニューだ」
「うん」
「だし巻き玉子を食べたい、という母上の注文に応えられなかった料理人がいるのだろう?だが、城の料理人なのだから、自分の腕には自信がある。上手くいかなかった原因を、壱臣いちおみに擦り付けようとするんじゃないのか?」

 うん、そう。そうなんだよ。それそれ。緋色ひいろ、よく分かるなあ!
 俺はいっぱい頷いた。安次嶺あじみねは、壱臣いちおみが字も碌々書けないとか、指南書の通り作って駄目だったとか言ってた。

「指南書、投げた」
「へえ?」

 緋色ひいろが、にやって笑う。
 ひっ、て声がしたから見たら、安次嶺あじみねがまだそこに居る。早く行かないと、村次むらつぐが料理を作り終わってしまうよ?

半助はんすけを連れていたら、後始末が面倒だったかもしれんな」

 後始末?

「ああ。何か壊してしまってたかもしれない?」
「かもな?」
「ひいぃ」
安次嶺あじみね!早く作業に移れ。村次むらつぐ矢渡やと手業てわざを、しっかりと見た方が良いのではないか?」

 八代やつしろが、安次嶺あじみねの背中を押した。安次嶺あじみねは、指南書も持たずに走っていった。

緋色ひいろ殿下。うちの者が大変な失礼を致しました。殿下も、共に味見をして頂けるのでしょうか?」
「味見はどうでもいいが、成人なるひとが帰るまで場所を借りる。ここでいい」
「畏まりました。今、お茶を」
「ああ」

 端っこにいた料理人たちが、ばたばたと動き出す。緋色ひいろの近くの人たちは、そっと椅子に座り直した。背筋を伸ばして、固まっている。
 俺は、抱っこしようとする緋色ひいろの手を押さえた。

「俺、作ってるとこ見てくる」
「そうか」

 緋色ひいろが来たら、ちゃんと話せてすっきりした。これなら、にこにこで美味しいって言える。良かった。
 緋色ひいろ、呼んでないけど、来てくれてありがと。
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