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第八章 郷に入っては郷に従え
17 呼んでないよ 成人
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「できない訳がありません!私はいつでも、指南書通りの品を作り上げてきました。ですから、できていないならそれは、指南書がおかしいのです。作れと仰るなら、指南書の書き直しを要求致します」
違う。おかしくない。だって矢渡はできてた。違う。
「んー」
上手く言えなくて、首を横に振る。背中の村次の手があったかい。
「最初に、うちの師匠たちは言ったはずですよ、安次嶺さん。指南書は自分で作り上げてほしい、と」
村次の静かな低い声。それ。それだ。詳しい指南書は、うちにはないって広末は言った。いくらでも、見て聞いて、自分の分かりやすい指南書を作り上げてほしいって。
「もとの指南書が無いなど、聞いたこともない」
「言ったはずだ」
口を挟んだのは八代だ。
「料理長」
「そもそも、広末にそう言われたから、お前と矢渡を研修へ出したのだ。指南書を受け取って作成できるものなら、そうしている」
「いや、しかし」
「本当に、もとの指南書がないとは思っていなかったと言うのなら、私の言葉を信じていなかった、ということになるな」
「いえ、そんな。そんなことは」
「では、どういうことか」
「……」
安次嶺は、口を閉じる。
「指南書通りの品を正確に作れるお前を見込んで、研修へと出したのだ。これまでの経験を活かして、どんな指南書を作り上げるのか楽しみでもあった。矢渡に後れを取るなどと、思ってもみなかった」
「後れを、取る……」
安次嶺が、呆然と呟く。
「私が?こんな、落ちこぼれに?」
むか。
「矢渡は、確かに器用な質ではない。だが、見て聞いて理解することに長けている」
「料理長。矢渡への過分な評価、公里としてお礼申し上げます。この度は、見事成果を出したようで、誇らしいことです。ですが、まあ、たまたま上手くいっただけかもしれません。安次嶺殿も、此度のことは過度にお気になさらず、これからも共に研鑽に努めようではありませんか」
口を挟んだ知らない料理人は、矢渡が褒められたことにお礼を言った。公里として?この人も公里?
矢渡が褒められたのに、また嫌な気持ちが広がる。
この公里が、お礼を言いながら、そんなことないよって、せっかく褒められたことを無しにしてるように聞こえるからだ。
「安次嶺。後れを取っていないと言うなら、成人殿下のご要望通り、一つ作れ。矢渡も、もう一つ作ってくれるか?」
「はっ」
「ですから!指南書が……」
「作れないと言うなら、それで良い。お前にはできないと判断して、今後、関連の作業からは外す。更に、それなりの形になるまで研修して来いとの命に背いたとして、一週間の謹慎処分と致す」
「あ、いや……」
「俺も、作ろう。俺が作るのを見てから二人が作って、三つの味比べでどうです?」
村次が手を挙げて言った時、厨房の扉が開いた。
「緋色」
「おう」
一斉に立ち上がって包拳礼をする料理人たちには知らん顔で、緋色は俺の所へ歩いてくる。
「緋色」
「呼んだか?」
「呼んでない」
「そうか」
呼んでないけど、まあ、うん。
緋色が、俺を抱っこしようとするのを止めた。少しだけ待ってて。
「村次が作るの見てから、安次嶺と矢渡が作って味見する。決まり」
「はっ」
たくさんの声が、了承の返事をした。並べて食べたら、すぐ分かる。矢渡がちゃんと習ってきたんだって、すぐに分かるから。
違う。おかしくない。だって矢渡はできてた。違う。
「んー」
上手く言えなくて、首を横に振る。背中の村次の手があったかい。
「最初に、うちの師匠たちは言ったはずですよ、安次嶺さん。指南書は自分で作り上げてほしい、と」
村次の静かな低い声。それ。それだ。詳しい指南書は、うちにはないって広末は言った。いくらでも、見て聞いて、自分の分かりやすい指南書を作り上げてほしいって。
「もとの指南書が無いなど、聞いたこともない」
「言ったはずだ」
口を挟んだのは八代だ。
「料理長」
「そもそも、広末にそう言われたから、お前と矢渡を研修へ出したのだ。指南書を受け取って作成できるものなら、そうしている」
「いや、しかし」
「本当に、もとの指南書がないとは思っていなかったと言うのなら、私の言葉を信じていなかった、ということになるな」
「いえ、そんな。そんなことは」
「では、どういうことか」
「……」
安次嶺は、口を閉じる。
「指南書通りの品を正確に作れるお前を見込んで、研修へと出したのだ。これまでの経験を活かして、どんな指南書を作り上げるのか楽しみでもあった。矢渡に後れを取るなどと、思ってもみなかった」
「後れを、取る……」
安次嶺が、呆然と呟く。
「私が?こんな、落ちこぼれに?」
むか。
「矢渡は、確かに器用な質ではない。だが、見て聞いて理解することに長けている」
「料理長。矢渡への過分な評価、公里としてお礼申し上げます。この度は、見事成果を出したようで、誇らしいことです。ですが、まあ、たまたま上手くいっただけかもしれません。安次嶺殿も、此度のことは過度にお気になさらず、これからも共に研鑽に努めようではありませんか」
口を挟んだ知らない料理人は、矢渡が褒められたことにお礼を言った。公里として?この人も公里?
矢渡が褒められたのに、また嫌な気持ちが広がる。
この公里が、お礼を言いながら、そんなことないよって、せっかく褒められたことを無しにしてるように聞こえるからだ。
「安次嶺。後れを取っていないと言うなら、成人殿下のご要望通り、一つ作れ。矢渡も、もう一つ作ってくれるか?」
「はっ」
「ですから!指南書が……」
「作れないと言うなら、それで良い。お前にはできないと判断して、今後、関連の作業からは外す。更に、それなりの形になるまで研修して来いとの命に背いたとして、一週間の謹慎処分と致す」
「あ、いや……」
「俺も、作ろう。俺が作るのを見てから二人が作って、三つの味比べでどうです?」
村次が手を挙げて言った時、厨房の扉が開いた。
「緋色」
「おう」
一斉に立ち上がって包拳礼をする料理人たちには知らん顔で、緋色は俺の所へ歩いてくる。
「緋色」
「呼んだか?」
「呼んでない」
「そうか」
呼んでないけど、まあ、うん。
緋色が、俺を抱っこしようとするのを止めた。少しだけ待ってて。
「村次が作るの見てから、安次嶺と矢渡が作って味見する。決まり」
「はっ」
たくさんの声が、了承の返事をした。並べて食べたら、すぐ分かる。矢渡がちゃんと習ってきたんだって、すぐに分かるから。
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