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第八章 郷に入っては郷に従え
38 一ノ瀬は見た 3
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「お前は、何を言っている?」
口を開いたのは、休憩室から出てきた男たちの一人。この厨房で、最も年齢が高いように見える。定年間近の重鎮か?料理長にはなれなかった男、ということか。そういえば八代は、歴代の料理長の中でも若い部類なのではないだろうか。まだ五十には届いておるまい。急な護衛、監視業務だったから、城の厨房の者の情報を仕入れる暇が無かったのが悔やまれる。まあ、離宮の料理長が無事に、機嫌良く帰ることができたら上々としよう……。城の厨房のごたごたなんて、離宮には関係ないもんな。あ、いや、皇太子殿下のためにはしっかりと見ておくべきなのか?
「何って、料理の作り方について尋ねてるんですが」
「やはり、指南書を読めぬのか?」
くく、と楽しそうな笑い声。
「よいか。その指南書の通りに作れば、至高の一品ができあがるのじゃ。味付け、煮るための時間、食材の切り方に至るまで、最も良いと判断されたことが記してある。それ以上の品はない。それが、城の献立の指南書なのじゃ。我らは、先達の残したその至高の一品を、如何に忠実に作り上げることができるかに心を砕かねばならぬ。それが分からぬ手伝いなど、邪魔でしかない。疾く去ね」
うわあ。何か、古い人だ。こう、古いものが良いみたいに思ってる人。最近の若い奴はってすぐ言う感じの人。こいつが、味くらべで茶皿を選んだんじゃねえ?まさか見た目で茶皿って書いたんでは?皇妃殿下が食べたいと仰っただし巻き玉子と似ていない、と判断された茶色の皿の玉子焼きは、形は最も整っていた。だし巻き玉子は、今にも崩れそうな柔らかさが美味い食べ物だから、まだ作り慣れていない矢渡のは、少し形が悪かったからな。
「とくいね?」
広末さんが首を傾げている。貴族言葉かな、とか思ってんのかな。誤解しないでくれよ。名字持ちの貴族だって、今時そんな言葉使わねえよ。
「こんなことも分からぬのか」
笑ってるの、あんたと横の年配の二人だけだから。他の若い料理人たちも首を傾げてるから。
「早く立ち去れと言っておる。指南書が読めねば、猫の手より役には立たん」
「へええ。あ、いや、指南書が読めねえ訳じゃねえですよ。この国では、誰だって学校に通わせてもらえるんですから。ありがたいことです。だから大丈夫なんですが、ええっと、至高の料理?そのまんま作る?いやいや、そりゃまあ、よりたくさんの人が美味しいって言う料理はあるでしょうが、ここは大衆食堂じゃねえんですよ。数少ない、尊いお方へのお料理をお作りできる名誉を頂いたんです。個人のお好みを把握して作って差し上げるのが、当たり前ってもんでしょ?で、この料理の味付けでは皇太子殿下には甘すぎるから、ちょっと甘味を控えめにしましょうって話です。その時、陛下のお好みはどうなんだと気になって聞いているだけで、何もおかしなこたぁ言ってねえですよ?使用人たち向けの大鍋は、この配分になさったらいいと思うし。けど、あれだ。そういうのも、何回か作って、人気かどうか見極めて味の具合を変えてくもんでしょ?働いてる人間はどんどん変わっていくんだから、ずっと味の好みがおんなじ人間がいる訳じゃなし、今のところこれが人気だってだけの話ですよね?」
ぽかんと口を開ける、この国最高の腕を持つはずの料理人たち。何故、そんな反応が返ってくるのかと困っている広末さん。
「至高の一品に手を加えるなどと、これだから物知らずの平民は!これは、百年前の帝が大層お褒めくださり、未来永劫城の献立として残すようにとのお言葉まで述べられた究極の一品であるのだぞ!その配合や煮具合を変えるなどと、なんと罰当たりな!」
あまり興奮すると、血管切れちまうぞ、じじい。
「……え?いや。その百年前の陛下?が、すんごくお好みだった献立ってだけですよね?今の陛下がお好みかどうか、聞いてみないと分かんないじゃないですか。ちょっと甘いって思ってるかもしれませんし」
「へ、陛下も、皇太子殿下も、特に何も仰られたことはないのだが……」
城の料理長が、おずおずと口を開く。
「あ、そうなんです?んー。でも、朱実殿下、緋色殿下と味の好み似てるでしょ?緋色殿下ほどじゃないけど、甘すぎるの苦手ですよね?」
「…………」
一体どちらが専属料理人か分からんな。
口を開いたのは、休憩室から出てきた男たちの一人。この厨房で、最も年齢が高いように見える。定年間近の重鎮か?料理長にはなれなかった男、ということか。そういえば八代は、歴代の料理長の中でも若い部類なのではないだろうか。まだ五十には届いておるまい。急な護衛、監視業務だったから、城の厨房の者の情報を仕入れる暇が無かったのが悔やまれる。まあ、離宮の料理長が無事に、機嫌良く帰ることができたら上々としよう……。城の厨房のごたごたなんて、離宮には関係ないもんな。あ、いや、皇太子殿下のためにはしっかりと見ておくべきなのか?
「何って、料理の作り方について尋ねてるんですが」
「やはり、指南書を読めぬのか?」
くく、と楽しそうな笑い声。
「よいか。その指南書の通りに作れば、至高の一品ができあがるのじゃ。味付け、煮るための時間、食材の切り方に至るまで、最も良いと判断されたことが記してある。それ以上の品はない。それが、城の献立の指南書なのじゃ。我らは、先達の残したその至高の一品を、如何に忠実に作り上げることができるかに心を砕かねばならぬ。それが分からぬ手伝いなど、邪魔でしかない。疾く去ね」
うわあ。何か、古い人だ。こう、古いものが良いみたいに思ってる人。最近の若い奴はってすぐ言う感じの人。こいつが、味くらべで茶皿を選んだんじゃねえ?まさか見た目で茶皿って書いたんでは?皇妃殿下が食べたいと仰っただし巻き玉子と似ていない、と判断された茶色の皿の玉子焼きは、形は最も整っていた。だし巻き玉子は、今にも崩れそうな柔らかさが美味い食べ物だから、まだ作り慣れていない矢渡のは、少し形が悪かったからな。
「とくいね?」
広末さんが首を傾げている。貴族言葉かな、とか思ってんのかな。誤解しないでくれよ。名字持ちの貴族だって、今時そんな言葉使わねえよ。
「こんなことも分からぬのか」
笑ってるの、あんたと横の年配の二人だけだから。他の若い料理人たちも首を傾げてるから。
「早く立ち去れと言っておる。指南書が読めねば、猫の手より役には立たん」
「へええ。あ、いや、指南書が読めねえ訳じゃねえですよ。この国では、誰だって学校に通わせてもらえるんですから。ありがたいことです。だから大丈夫なんですが、ええっと、至高の料理?そのまんま作る?いやいや、そりゃまあ、よりたくさんの人が美味しいって言う料理はあるでしょうが、ここは大衆食堂じゃねえんですよ。数少ない、尊いお方へのお料理をお作りできる名誉を頂いたんです。個人のお好みを把握して作って差し上げるのが、当たり前ってもんでしょ?で、この料理の味付けでは皇太子殿下には甘すぎるから、ちょっと甘味を控えめにしましょうって話です。その時、陛下のお好みはどうなんだと気になって聞いているだけで、何もおかしなこたぁ言ってねえですよ?使用人たち向けの大鍋は、この配分になさったらいいと思うし。けど、あれだ。そういうのも、何回か作って、人気かどうか見極めて味の具合を変えてくもんでしょ?働いてる人間はどんどん変わっていくんだから、ずっと味の好みがおんなじ人間がいる訳じゃなし、今のところこれが人気だってだけの話ですよね?」
ぽかんと口を開ける、この国最高の腕を持つはずの料理人たち。何故、そんな反応が返ってくるのかと困っている広末さん。
「至高の一品に手を加えるなどと、これだから物知らずの平民は!これは、百年前の帝が大層お褒めくださり、未来永劫城の献立として残すようにとのお言葉まで述べられた究極の一品であるのだぞ!その配合や煮具合を変えるなどと、なんと罰当たりな!」
あまり興奮すると、血管切れちまうぞ、じじい。
「……え?いや。その百年前の陛下?が、すんごくお好みだった献立ってだけですよね?今の陛下がお好みかどうか、聞いてみないと分かんないじゃないですか。ちょっと甘いって思ってるかもしれませんし」
「へ、陛下も、皇太子殿下も、特に何も仰られたことはないのだが……」
城の料理長が、おずおずと口を開く。
「あ、そうなんです?んー。でも、朱実殿下、緋色殿下と味の好み似てるでしょ?緋色殿下ほどじゃないけど、甘すぎるの苦手ですよね?」
「…………」
一体どちらが専属料理人か分からんな。
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