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第八章 郷に入っては郷に従え
46 これでよし 朱実
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「皇太子殿下。発言をお許し頂けますか」
料理長の横に座る者が、声を上げた。
「申せ」
にこやかに頷けば、決意を秘めた顔をこちらへと向けてくる。昨日は休みだった班の責任者だな。一応の情報は頭に入れてある。
「ありがとうございます。佐波但木と申します。浅慮にて、ご発言の意図を解することができませず、お尋ねすることをお許しください。その、こちらの品の試食は、どのような意図でなされているのでありましょうか」
「さて?試食とは、味の具合を確かめることであろう?他に何の意図があろうか」
「味の具合、でございますか……?しかし……」
一応、弁えてはいるらしい。だがまあ、逃がしはせぬ。私はもう、知ってしまった。知ってしまえば、知らぬ頃へ戻れはせぬものだ。人とは、そういうものだろう?
言い淀む男へ柔らかい笑みを意識して向ければ、ぐ、と決意した様子を見せ、更に口を開いた。
「私は、幸運にも、いと尊き方々のお食事を供することができる栄を賜り、長年、こちらの厨房で腕を磨いて参りました。如何にして、この厨房に残された至高の献立を、指南書通り寸分違わず作り上げるか、そのことに心血を注いで参ったつもりでございます。そして、それを成し遂げて参りました。これからも、私の技はそうして磨かれてゆくことでしょう。なれば、このように、至高の献立に含まれていない品をこの厨房で口にすることに、どのような意味があるのかを理解できませぬ」
この厨房に残された献立を、指南書通り寸分違わず作り上げることが正解……。なるほど。なるほど……!
ようやく腑に落ちた。これまでの食事が、誰の口にもあわなかったのは何故なのか。
「ふむ……?」
「どういう意味?」
私としては、理解できぬことが理解できぬので、首を傾げてみせる。と、隣でわらび餅と茶を堪能していた成人が、同じように首を傾げてみせた。
「この料理人は、この厨房に指南書が残る献立しか作らない、と宣言したのだよ。もし私がこれを美味しいと言っても、作ってはくれないそうだ」
「ええー?」
驚くだろう?
お前は、絵本に出てくる食べ物を注文して作ってもらったり、旅先で気に入った食べ物を伝えて作ってもらったりしているのだから。料理人というのは、こんなものが食べたい、と注文したら作ってくれる凄い人、と認識しているのだろう?この食べ物が美味しいから作ってほしい、と言って断られるなんて、想像したこともないに違いない。
まあ私も、食事について何か述べてもよいのだということを、ほんの数日前まで知らなかったのだがね。
「今回のこれは、残念ながらあまり好みではなかったが、私は、離宮の献立の中に、大変好みの品がたくさんあるよ。母上のように、私もこれからは注文してみようと思っていた。そのための研修も行われ、責任者も決まったと聞いて喜んでいたのだよ。こうして、離宮のおやつを試食する機会があるのは、皆にとっても技術向上のために良いと考えたのだが、私は考え違いをしていただろうか」
少し目を伏せて気落ちした声を出すと、ごく近くの席に座る料理長が慌てた顔をみせた。
「皇太子殿下、発言をお許しください」
「ああ、もちろん」
「殿下は、何も考え違いなどなさってはおられません。是非とも、お食事に関するご意見をお聞かせ頂けることを、厨房一同、首を長くしてお待ち致しております」
言質は取ったからね。
料理長の横に座る者が、声を上げた。
「申せ」
にこやかに頷けば、決意を秘めた顔をこちらへと向けてくる。昨日は休みだった班の責任者だな。一応の情報は頭に入れてある。
「ありがとうございます。佐波但木と申します。浅慮にて、ご発言の意図を解することができませず、お尋ねすることをお許しください。その、こちらの品の試食は、どのような意図でなされているのでありましょうか」
「さて?試食とは、味の具合を確かめることであろう?他に何の意図があろうか」
「味の具合、でございますか……?しかし……」
一応、弁えてはいるらしい。だがまあ、逃がしはせぬ。私はもう、知ってしまった。知ってしまえば、知らぬ頃へ戻れはせぬものだ。人とは、そういうものだろう?
言い淀む男へ柔らかい笑みを意識して向ければ、ぐ、と決意した様子を見せ、更に口を開いた。
「私は、幸運にも、いと尊き方々のお食事を供することができる栄を賜り、長年、こちらの厨房で腕を磨いて参りました。如何にして、この厨房に残された至高の献立を、指南書通り寸分違わず作り上げるか、そのことに心血を注いで参ったつもりでございます。そして、それを成し遂げて参りました。これからも、私の技はそうして磨かれてゆくことでしょう。なれば、このように、至高の献立に含まれていない品をこの厨房で口にすることに、どのような意味があるのかを理解できませぬ」
この厨房に残された献立を、指南書通り寸分違わず作り上げることが正解……。なるほど。なるほど……!
ようやく腑に落ちた。これまでの食事が、誰の口にもあわなかったのは何故なのか。
「ふむ……?」
「どういう意味?」
私としては、理解できぬことが理解できぬので、首を傾げてみせる。と、隣でわらび餅と茶を堪能していた成人が、同じように首を傾げてみせた。
「この料理人は、この厨房に指南書が残る献立しか作らない、と宣言したのだよ。もし私がこれを美味しいと言っても、作ってはくれないそうだ」
「ええー?」
驚くだろう?
お前は、絵本に出てくる食べ物を注文して作ってもらったり、旅先で気に入った食べ物を伝えて作ってもらったりしているのだから。料理人というのは、こんなものが食べたい、と注文したら作ってくれる凄い人、と認識しているのだろう?この食べ物が美味しいから作ってほしい、と言って断られるなんて、想像したこともないに違いない。
まあ私も、食事について何か述べてもよいのだということを、ほんの数日前まで知らなかったのだがね。
「今回のこれは、残念ながらあまり好みではなかったが、私は、離宮の献立の中に、大変好みの品がたくさんあるよ。母上のように、私もこれからは注文してみようと思っていた。そのための研修も行われ、責任者も決まったと聞いて喜んでいたのだよ。こうして、離宮のおやつを試食する機会があるのは、皆にとっても技術向上のために良いと考えたのだが、私は考え違いをしていただろうか」
少し目を伏せて気落ちした声を出すと、ごく近くの席に座る料理長が慌てた顔をみせた。
「皇太子殿下、発言をお許しください」
「ああ、もちろん」
「殿下は、何も考え違いなどなさってはおられません。是非とも、お食事に関するご意見をお聞かせ頂けることを、厨房一同、首を長くしてお待ち致しております」
言質は取ったからね。
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