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第八章 郷に入っては郷に従え
65 師匠の師匠 村次
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「こんにちは。緋色殿下んちの料理人、村次と申します。壱臣師匠には、いつもお世話になっております」
源之進さんが、先ほどから作業をしている作業台の前の椅子に腰掛けるのを待って、声をかけた。気配と足音は極力消して追いかけていたが、源之進さんに驚いた様子は無かった。
ははあ。なるほど。
「師匠?臣が?」
少し口角が上がるのが見えた。
「ええ、はい。俺の師匠の一人です」
「あいつにゃ、碌な技を仕込んでねえけど」
「俺には、勉強になる技ばかりでしたよ」
「へえ?」
「師匠の師匠に敬意を」
頭を下げると、
「いらん。俺は、お前さんの師匠って訳じゃねえ」
言いながら指が向かいの椅子を指し、とんとんと机を叩いた。
「はい」
遠慮なく座る。追い払われても居座るつもりだったから助かった。
「あれは、臣はな。生きなきゃなんなかったから、ちいとの量で腹が膨れる料理とか、道具や設備が無くても作れる料理とか、そんなんばっかでな。かさ増しの仕方ばっかり上手くなっちまって」
「そうでしたか」
卵を、出汁でかさ増しした事でだし巻き玉子が生まれたのなら、それは素晴らしい料理を生み出していますよ、源之進さん。
「よく免許が取れたな。……偉えな、臣は」
それを、壱臣さんに直接言ってあげればいいのに。素直なあの人は、きっと大はしゃぎするだろう。それとも、泣いて喜ぶだろうか。
源之進さんの手が、話しながら動き出した。皮を剥いて、ある程度小さく切ってある人参が入れ物に積んであり、それを手に取っては綺麗な花の形に整えていく。
すごい……!
きっと、煮物の中にさり気なく入っている人参一つ持ち上げてみても、花の形をしているのに違いない。見つけた成人は、どんなに喜ぶだろうか。楽しみだ!
「源さんに伝言が」
源さん、の言葉に、眉がぴくりと動いた。壱臣さんは多分、源之進という名前を知らない。
「うちはまだ、飾り切りを教えてもろてない、と」
「似とらんわ、馬鹿」
似てないことは無いだろう。俺は、形態模写は得意だ。
「食うとこ減るやろ、馬鹿とか言うてやらしてくれんかったんやで。源さんは飾り切りの名手やて聞いたのに」
「似とらん言うとるやろ。やめえ、馬鹿。臣はどこで聞いたんや、そんなほら話」
「ほら話?よく言い切りましたね?どう見ても、飾り切りの名手じゃないですか」
源之進さんの手元に量産されていく人参の花。話しながらでもその速さは衰えない。形も、何個作っても美しい。
「こんなもん、慣れや慣れ」
かさ増しの腕が磨かれる厨房で、慣れるほど飾り切りをできたとは思えないんだけど?
源之進さんが、先ほどから作業をしている作業台の前の椅子に腰掛けるのを待って、声をかけた。気配と足音は極力消して追いかけていたが、源之進さんに驚いた様子は無かった。
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少し口角が上がるのが見えた。
「ええ、はい。俺の師匠の一人です」
「あいつにゃ、碌な技を仕込んでねえけど」
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「へえ?」
「師匠の師匠に敬意を」
頭を下げると、
「いらん。俺は、お前さんの師匠って訳じゃねえ」
言いながら指が向かいの椅子を指し、とんとんと机を叩いた。
「はい」
遠慮なく座る。追い払われても居座るつもりだったから助かった。
「あれは、臣はな。生きなきゃなんなかったから、ちいとの量で腹が膨れる料理とか、道具や設備が無くても作れる料理とか、そんなんばっかでな。かさ増しの仕方ばっかり上手くなっちまって」
「そうでしたか」
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