【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
969 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え

93 答え  緋色

しおりを挟む
「そ、そ、そ、そんな……。だって、わた、わたくしは、そんな、何も!」
「何もしていないと言うのか。包拳礼を勝手に解いて立ち上がろうとしたのに?皇族を前にしてのその動き。即、首を切られてもおかしくはない。今、そうして生きていること、僥倖と思え」
「え……!」

 なんだ?まさか、自らの行いに気付いていなかったのか?

「当たり前だろう?俺と俺の大切な伴侶への敬意を表す包拳礼を、勝手に解いたのだ。敬意に陰りありとみなすのは当然だ。その上、許可を得ずに立ち上がろうとした。害意を持ってこちらへ向かってくるものと判断されると、なぜ分からぬ」

 ふんふん、と成人なるひとが真面目な顔で頷いている。そこに罪があると、しっかり気付いていたか。やるな。

「わ、わたくしは致しませぬ。そのような事致しませぬ。決して致しませぬ。お慕い申している殿下に、そのような事をする訳がございませぬ!」

 必死で言い募る女に、気持ち悪さが込み上げる。この女は何を言っている?お慕い申している、だと?馬鹿か。

「初対面で、お慕い申している……ね。気持ち悪いな」
「お、お、お、お噂をお聞きし、お、お、思いを募らせて、おりました。ほ、ほ、本日、ついに、お、お会いすることができ、なんと素敵なお方かと、その、わたくしは……」

 震えながらもそう言って目を伏せてみせたのは、なかなかの胆力かもしれん。

「嬉しくて震えてるの?」

 成人なるひとが首を傾げている。

「そんな訳ないだろ。さて、自らの罪は分かったな。そろそろ無駄話は良いか?切るものは決めたか?」
「お慕いって何?」
「後で調べろ」

 んー、と納得いかない声が聞こえるが、これを俺がお前に説明するのは堪らなく嫌だ。

「き、切らん!わたくしは、何も切らん!お父様!お父様!しっかりして!わたくしを助けて!」

 のろのろと七宝しちほう佐兵衛さへえの顔が上がる。

「髪を切るほどの……」
「お父様!髪を切るほどのことをわたくしはしとらん。髪がなくなってしもうたら、わたくしはもう生きていけん。髪は、髪は……」

 俺が話している為、壱鷹いちたか大成たいせいは座して成り行きを見守っている。
 そうか、選んだか。

「左腕と左目を選ぶか。では、鼓与こと。外で刑を執行してこい。ここでは後始末が面倒だ」
「はっ」

 その細い体のどこにそんな力が、と驚く素早さで、鼓与ことが女を肩に担ぎ上げた。

「いやっ!いやっ!いやあっ!やめっ、やめてぇっ!やめっ……。髪!髪に。髪を。髪っ!」

 やはりな。そちらを選ぶと思っていた。

「え?なんで?」

 ただ一人だけ、成人なるひとの真っ直ぐな疑問が部屋に響く。

「左腕と左目でいいって言ってあげたのに、なんで髪?」
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...