【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

92 俺の自慢の伴侶  緋色

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 よくできました。
 そんな言葉が頭に浮かんで、俺は成人なるひとの頬に頬を擦り寄せた。嬉しそうに笑ったのが、頬の筋肉の動きで分かる。よく動くようになったその表情が、俺のより近くにいられることが何より嬉しいと、雄弁に伝えてくる。
 状況を観察し、よく考えて答えた成人なるひとの解答は満点だった。
 皇族おれの伴侶として満点の解答だ。
 犯した罪には罰を。
 冷たい、恐ろしい、心が通っていない。
 何と評されようと、下さねばならぬ決断がある。次の罪を生まぬために、犯した罪を明確にして罰を下さねばならぬ。これはしてはいけない、これをすればこのような罰が下ると多くの者が知っていれば、わざわざその罪を犯そうと思う者は減るだろう。そのためにも、見逃したり手加減したりするようなことがあってはならぬ。俺は、そういう輩に手ごころを加える気は、これっぽっちも無かった。
 世間の評価は正しい。不敬な相手にかける情など、俺は身の内に持ち合わせていない。いつもただ、相手が犯した罪に相応しい罰を淡々と下すだけだ。
 常陸丸ひたちまると楽しく過ごしていた学生時代に、俺が気安い性格だと勘違いして敬意を忘れて話しかけてきたり、俺が皇家に見放されて城から出されたのだと勘違いした輩が絡んできたりといった事件が幾つかあった。そういった輩には、目に見える形、世間に分かる形できちんと罰を与えた。自分は運が悪かった、みせしめにされた、と嘆く相手が多かったが、みせしめにした覚えなどない。ただ、正しく罪に対する罰を与えただけである。そうして、みせしめだとか言っているくせに、少し日が経つとその事件をすっかり忘れて、また同じような罪を犯す輩が現れるのだから呆れてしまう。それを幾度か繰り返して、最恐の称号を得る頃にようやく下火となった。
 いちいち、相手が何故このような事をしたのかも考えて慎重に罰を、などとやっていては、自分が疲弊してしまう。母上が良い例だ。家格が低い皇妃だと侮られても、実際そうだと強く言えずに悩むうちに心を壊しかけたのだ。
 家格が低かったから何だと言うんだ。元がどうであれ今は皇妃なのだから、前を向いて堂々としていれば良かったものを。
 見ろ。前を向いて、しっかりと罰を考える俺の伴侶の優秀さを。どうだ?俺の成人なるひとは凄いだろう?
 左腕を失い、左目を失っても、前を向いて進む。あった方が良かったけど、無いから仕方ない、と笑う。俺が好きだからと、妃殿下と呼ばれて背筋を伸ばし、そうであろうとする努力を怠らない。そんな成人なるひとが、結婚指輪を付けたいから左手が欲しかった、と泣いた日を俺は忘れない。
 これが、俺の伴侶だ。この素晴らしい伴侶に、よくも、その体ではできないことがあるだろう、などとと言ったな。自分の娘には手も足も目もある、などと言ったな?言った父親の方の髪を、早々に切ってしまったのは失敗だった。
 本当は、時間が経てばまた伸びてくる髪を短く切るだけで済ませるなど、酷く軽い罰だと思っている。この国ではとんでもなく重い処罰だと聞いても、納得はしていない。父親にも、聞いてみるのだったな。娘の不敬は父親ほどではなかったが、仕方ない。
 すまない。結局、みせしめになってしまうか?いや。弐角にかくも被害にあっていたのだから、その分の罰としよう。

成人なるひと殿下のお言葉が聞こえたなら、しかと答ええ、杜若かきつばた

 壱鷹いちたかが言った。

「左腕と左目か?それとも、髪か?」

 時間が経てばまた伸びる髪を短く切られることが重い処罰だ、恥だと言うのなら、もう二度と戻らない腕と目を差し出すがいい、娘。なに、両目両腕寄越せとは言わん。片方だけだ。
 俺たちは、優しいだろう?

「答えろ、娘」
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