【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

104 手のうち  鶴丸

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「はい!やりまっす!」
 
 力丸りきまるが元気に手を挙げた。うん。元気やな?うちは今、かなり疲れとるんやけど、元気やな?くそー。まだまだ修行が足りんわ。

常陸丸ひたちまる。相手してやれ」
「えええ!そりゃないです、殿下!俺と約束してたのに!」
「誰が、お前の喜ぶことをさせてやるものか」

 緋色ひいろ殿下は力丸りきまるの頭を、また、ぺしんと叩いた。緋色ひいろ、だめ、と緋色ひいろ殿下の腕の中で成人なるひと殿下の声がする。仲ええなあ。皆、仲ええな。

西賀さいかの跡取りを吹っ飛ばしたのを見たぞ。力加減が甘いんだ、ばか。立てないほどの怪我をさせていたら、国際問題だろうが」
「あー。ううう。すみません……」

 力丸りきまるは頭を抱えて謝罪の言葉を口にする。

「あの。うちは何ともないです。それに合意の上ですんで、何かあっても決して問題にはしません」
「俺たちが問題にしなくても、誰がどこで問題にするかなど分からん。西賀さいかの。その腕の青痣一つで首が飛ぶかもしれぬ者がいること、努努ゆめゆめ忘れるな」
「あ。は……」

 相手は熊ではなく人。そして、うちの身分はなかなかに高い。領民との距離が近い田舎に暮らしとったら忘れがちな、大切なこと。包拳礼を面倒臭がって、こうして仲のええ人々と気安く話しておられる緋色ひいろ殿下も、周りに余計な瑕疵かしを与えぬよう気を付けて生きていらっしゃるのか。

「肝に銘じます」

 自然と手は包拳礼の形を取り、頭が下がった。

「ま、俺の手のうちで起きた問題に口を出すやからに、容赦はせんがな。頭を上げろ、鶴丸つるまる。お前の礼はもう要らん」

 緋色ひいろ殿下は、ふと笑って成人なるひと殿下の額にまた、口づけを落とした。笑った成人なるひと殿下が、緋色ひいろ殿下の頬に口を寄せる。
 手のうち。手のうち、か。そうやな。自分の手を広げて抱え込める範囲を見極め、その中のもんは絶対に守ると決めてしまえば、何も思い悩むことは無いんかもしれん。
 包拳礼を解いて、自分の手を見つめる。単純でいて難しい。うちの手は、どこまでのもんを守れるんやろう。

「あの。ほな、よろしくお願いします」
「ああ、いや。まあ、はい」

 相手は決まりか、と踏んだ奥さんが常陸丸ひたちまるに頭を下げた。頭を下げられた常陸丸ひたちまるが慌てている。緋色ひいろ殿下の命令やから、お相手してくれるようや。とりあえず、うちの手からぴょーんと飛び出して行く奥さんを、どうやって守ったらええかな?

「うちだけ、武器を持ってもええですか」
「え?あ、ええっと、はい」

 流石うちの奥さん。絶対敵わんと分かってるけど、ただ振り回されて終わりとうないから、ハンデ戦か。頼もしいわ。
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