【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

105 戦う常陸丸は  成人

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 ぶんっ、ぶんっ、と松吉まつきちは手にした長い木の棒を振り回して、それから何度か、ばちっと地面に打ちつけた。うーん、と首を傾げているから、手に馴染まないんだろう。仕方ない。今ここで借りた訓練用の棒だから。

「使いにくい?」
「もう少ししなって欲しいんですけど、真っ直ぐ過ぎて」
「しなる?」
「はい。いつも使てる武器は、こう、柄がぐんと反ったり戻ったりしてくれるもんやから、力の加減がしやすいんです。こんだけ真っ直ぐやと、扱いを誤って強く当ててしまいそうや」
「構いませんよ」

 両手の甲に籠手こてを付けながら常陸丸ひたちまるが言った。ハンデ戦は構わないけれど、相手が武器持ちならこれだけ付けさせてくれ、と言って訓練所で借りてきた。手の甲と肘近くまでの腕の上側だけを覆うもの。ぱっと見た感じは全体が分厚い布で、そんなに体を守れる感じはしない。でも、常陸丸ひたちまるが手を握ったり開いたりして、籠手同士を打ち合わせると、かんと音が聞こえた。中に金属の板が入ってる?そうすると、少し重たいのか。じゃあ、守れるけど動きは遅くなるな。うーん、俺は無い方が……。

成人なるひと。一度目をつぶれ。始まる時は教える」

 真剣に見ていたら、緋色ひいろに目を塞がれた。
 ああ、そうだった。一つしかない目で、二つある人と同じようにものを見ようとするとどうしても疲れるのだった。速い動きなんかは余計に。目を閉じてしまうと、体だけでない疲れも感じて緋色ひいろにくたりともたれ掛かる。
 覆ってくれる緋色ひいろの手が温かい。気持ちいい。今日は、色々楽しすぎた。

「私も、額を出さねばなりませんな」  

 じいやの声。

「見誤ったか」
「あまりに楽しそうでしたから、つい」
「そうか」
 
 少しの間そうしていると、だいぶ楽になった。緋色ひいろにくっついてると何でもすぐ治る。すごいよね、緋色ひいろ。お薬や注射よりずっとすごい。緋色ひいろにくっついてたら、俺は長生きできるな。簡単な長生きの方法、見つけちゃった。
 空気が張り詰める気配がする。だるい右手を上げて、緋色ひいろの手を顔から避けた。

「はじめ!」
「はいっ、はいっ、はいっ。はっ。はいー、はいやっ」

 力丸りきまるの声に、松吉まつきちが声を出しながら構えた棒をものすごい速さで突いた。三回。常陸丸ひたちまるが全部綺麗に避けると、突き出した勢いそのままに横に薙ぐ動きに変える。それも避けらてバランスを崩しかけて踏みとどまり、更に棒を反対に薙いだ。常陸丸ひたちまるが棒を掴もうとしていることに気付いて、軌道を変えるために、ばしんっと地面に棒を叩きつけてからその勢いも借りて後ろへと跳ぶ。

「ほう」
「なるほど。やりたがるだけのことはある」

 緋色ひいろとじいやが言った。鶴丸つるまるは、ぎゅうと手を握って口も閉じて見ている。分かる。好きな人、大事な人が危険な時、飛び出さないようにするのは大変だ。体が勝手に、助けるために動こうとする。でも今は行っちゃいけない。抑えるのが大変だ。
 だって、頭の奥深いところで声がする。攻めてるのはどう見ても松吉まつきちなのに、常陸丸ひたちまるはまだそんなに動いていないのに。
 逃げて。
 そう、本能が告げる。
 逃げて、松吉まつきち
 ああ。戦う常陸丸ひたちまるは、その存在がまるで兵器のよう。
 そう、まるでいつかの……。
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