981 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え
105 戦う常陸丸は 成人
しおりを挟む
ぶんっ、ぶんっ、と松吉は手にした長い木の棒を振り回して、それから何度か、ばちっと地面に打ちつけた。うーん、と首を傾げているから、手に馴染まないんだろう。仕方ない。今ここで借りた訓練用の棒だから。
「使いにくい?」
「もう少ししなって欲しいんですけど、真っ直ぐ過ぎて」
「しなる?」
「はい。いつも使てる武器は、こう、柄がぐんと反ったり戻ったりしてくれるもんやから、力の加減がしやすいんです。こんだけ真っ直ぐやと、扱いを誤って強く当ててしまいそうや」
「構いませんよ」
両手の甲に籠手を付けながら常陸丸が言った。ハンデ戦は構わないけれど、相手が武器持ちならこれだけ付けさせてくれ、と言って訓練所で借りてきた。手の甲と肘近くまでの腕の上側だけを覆うもの。ぱっと見た感じは全体が分厚い布で、そんなに体を守れる感じはしない。でも、常陸丸が手を握ったり開いたりして、籠手同士を打ち合わせると、かんと音が聞こえた。中に金属の板が入ってる?そうすると、少し重たいのか。じゃあ、守れるけど動きは遅くなるな。うーん、俺は無い方が……。
「成人。一度目をつぶれ。始まる時は教える」
真剣に見ていたら、緋色に目を塞がれた。
ああ、そうだった。一つしかない目で、二つある人と同じようにものを見ようとするとどうしても疲れるのだった。速い動きなんかは余計に。目を閉じてしまうと、体だけでない疲れも感じて緋色にくたりともたれ掛かる。
覆ってくれる緋色の手が温かい。気持ちいい。今日は、色々楽しすぎた。
「私も、額を出さねばなりませんな」
じいやの声。
「見誤ったか」
「あまりに楽しそうでしたから、つい」
「そうか」
少しの間そうしていると、だいぶ楽になった。緋色にくっついてると何でもすぐ治る。すごいよね、緋色。お薬や注射よりずっとすごい。緋色にくっついてたら、俺は長生きできるな。簡単な長生きの方法、見つけちゃった。
空気が張り詰める気配がする。だるい右手を上げて、緋色の手を顔から避けた。
「はじめ!」
「はいっ、はいっ、はいっ。はっ。はいー、はいやっ」
力丸の声に、松吉が声を出しながら構えた棒をものすごい速さで突いた。三回。常陸丸が全部綺麗に避けると、突き出した勢いそのままに横に薙ぐ動きに変える。それも避けらてバランスを崩しかけて踏みとどまり、更に棒を反対に薙いだ。常陸丸が棒を掴もうとしていることに気付いて、軌道を変えるために、ばしんっと地面に棒を叩きつけてからその勢いも借りて後ろへと跳ぶ。
「ほう」
「なるほど。やりたがるだけのことはある」
緋色とじいやが言った。鶴丸は、ぎゅうと手を握って口も閉じて見ている。分かる。好きな人、大事な人が危険な時、飛び出さないようにするのは大変だ。体が勝手に、助けるために動こうとする。でも今は行っちゃいけない。抑えるのが大変だ。
だって、頭の奥深いところで声がする。攻めてるのはどう見ても松吉なのに、常陸丸はまだそんなに動いていないのに。
逃げて。
そう、本能が告げる。
逃げて、松吉。
ああ。戦う常陸丸は、その存在がまるで兵器のよう。
そう、まるでいつかの……。
「使いにくい?」
「もう少ししなって欲しいんですけど、真っ直ぐ過ぎて」
「しなる?」
「はい。いつも使てる武器は、こう、柄がぐんと反ったり戻ったりしてくれるもんやから、力の加減がしやすいんです。こんだけ真っ直ぐやと、扱いを誤って強く当ててしまいそうや」
「構いませんよ」
両手の甲に籠手を付けながら常陸丸が言った。ハンデ戦は構わないけれど、相手が武器持ちならこれだけ付けさせてくれ、と言って訓練所で借りてきた。手の甲と肘近くまでの腕の上側だけを覆うもの。ぱっと見た感じは全体が分厚い布で、そんなに体を守れる感じはしない。でも、常陸丸が手を握ったり開いたりして、籠手同士を打ち合わせると、かんと音が聞こえた。中に金属の板が入ってる?そうすると、少し重たいのか。じゃあ、守れるけど動きは遅くなるな。うーん、俺は無い方が……。
「成人。一度目をつぶれ。始まる時は教える」
真剣に見ていたら、緋色に目を塞がれた。
ああ、そうだった。一つしかない目で、二つある人と同じようにものを見ようとするとどうしても疲れるのだった。速い動きなんかは余計に。目を閉じてしまうと、体だけでない疲れも感じて緋色にくたりともたれ掛かる。
覆ってくれる緋色の手が温かい。気持ちいい。今日は、色々楽しすぎた。
「私も、額を出さねばなりませんな」
じいやの声。
「見誤ったか」
「あまりに楽しそうでしたから、つい」
「そうか」
少しの間そうしていると、だいぶ楽になった。緋色にくっついてると何でもすぐ治る。すごいよね、緋色。お薬や注射よりずっとすごい。緋色にくっついてたら、俺は長生きできるな。簡単な長生きの方法、見つけちゃった。
空気が張り詰める気配がする。だるい右手を上げて、緋色の手を顔から避けた。
「はじめ!」
「はいっ、はいっ、はいっ。はっ。はいー、はいやっ」
力丸の声に、松吉が声を出しながら構えた棒をものすごい速さで突いた。三回。常陸丸が全部綺麗に避けると、突き出した勢いそのままに横に薙ぐ動きに変える。それも避けらてバランスを崩しかけて踏みとどまり、更に棒を反対に薙いだ。常陸丸が棒を掴もうとしていることに気付いて、軌道を変えるために、ばしんっと地面に棒を叩きつけてからその勢いも借りて後ろへと跳ぶ。
「ほう」
「なるほど。やりたがるだけのことはある」
緋色とじいやが言った。鶴丸は、ぎゅうと手を握って口も閉じて見ている。分かる。好きな人、大事な人が危険な時、飛び出さないようにするのは大変だ。体が勝手に、助けるために動こうとする。でも今は行っちゃいけない。抑えるのが大変だ。
だって、頭の奥深いところで声がする。攻めてるのはどう見ても松吉なのに、常陸丸はまだそんなに動いていないのに。
逃げて。
そう、本能が告げる。
逃げて、松吉。
ああ。戦う常陸丸は、その存在がまるで兵器のよう。
そう、まるでいつかの……。
1,263
あなたにおすすめの小説
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる