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第九章 礼儀を知る人知らない人
20 よう寝た 源之進
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よう寝た……。
ぽか、と目が覚めて思ったのはそれやった。
よう寝た、ほんまに。
細切れでしか寝られんのが当たり前になっとったから、よく寝て、起きたと感じられることが不思議で、目が覚めてからもしばらく、ぽかんとしとった。
トイレへ行きたくなって身を起こしてはじめて、足の痛みが無いことに気付く。ずっと悩まされとった痛み。何をしてもしなくても、ずくずくと痛む古傷。雨が降ったりすれば余計に酷く、強い痛み止めを纏めて買って飲んでいた。それが、俺が俺のために買う、たった一つの贅沢品。臣を守り育てるために必要やったもの。それも、ずっと飲んでいたら効きも悪うなるようで、効いたり効かんかったりした。次第に、眠りも浅く足の動きも悪くなってきとったけど、臣がおらんのやからもうええかって、近頃はどこかで思っとった。
その、ずっと続いとった痛みが、無い。
点滴ってのは、えらいもんやなと、未だ繋がれとる管を眺めた。
「手伝いはいりますか?」
咄嗟に身構え、薄暗い室内に目を凝らす。
ベッドのすぐ横。気付かなかった……。
「半助……」
つい、苦々しく吐き出してしまう。
「俺で申し訳ない。さっきまで臣もおったんやけど」
「……何時や」
「五時半です」
「五時半」
おやつの時間からやったら、二時間ほど。それにしては……。
「まさか」
「はい」
「朝か……」
「ええ」
そりゃまた、よう寝たもんや。
とりあえず、用を足すことにした。
ベッド脇に置かれていた靴を履いて立ち上がっても痛みはなく、まるで自分の足や無いような気ぃさえする。繋がれたものを外すこともできず、棒を持って動こうとして、はたと辺りを見渡した。
「この部屋は?」
「貴方がしばらく過ごす部屋です。入院することになったとお聞きしました」
「らしいな。移動したんか」
「はい。トイレへ案内します」
「……」
椅子から立ち上がっていた半助に、いらんと言いたいがそれもできん。
薄暗い中も迷わず歩く背中について行って用を足し、与えられた部屋へ戻ると、水差しからコップへ注いだ水を手渡された。片手で色々と器用なことだ。有り難く飲んでベッドへ戻る。点滴に繋がれていては、どうしようもない。
それに、痛くない。
「俺が仕事に行く頃には、臣が一度戻ってくるんで。きっと朝食を持ってくると思います」
朝食を作りに行ったんか。屋敷勤めの料理人の朝が早いのはどこでも変わらんからな。
…………。
「さっきまでここにおった言うたな。あいつ、ちゃんと寝たんか」
「夜は、何とか連れて帰りました。源さんが目ぇ覚ましたら、必ず連絡をしてもらうことを夜勤の方と約束して」
「そうか」
「連絡はなかったのですが、臣、あんまり寝れんかったようで早うに目ぇ覚ましてしもて」
「そうか」
「様子を見てから仕事に」
「大したこと無いのに、阿呆やな」
「よう寝とる、と喜んでいました」
「そうか……」
あの子は、俺がよう寝れとらんことに気付いとったんか?
普段ぽやぽやとしとるくせに、大事なことだけちゃんと鋭いとか、そりゃ反則やろ、臣。
ぽか、と目が覚めて思ったのはそれやった。
よう寝た、ほんまに。
細切れでしか寝られんのが当たり前になっとったから、よく寝て、起きたと感じられることが不思議で、目が覚めてからもしばらく、ぽかんとしとった。
トイレへ行きたくなって身を起こしてはじめて、足の痛みが無いことに気付く。ずっと悩まされとった痛み。何をしてもしなくても、ずくずくと痛む古傷。雨が降ったりすれば余計に酷く、強い痛み止めを纏めて買って飲んでいた。それが、俺が俺のために買う、たった一つの贅沢品。臣を守り育てるために必要やったもの。それも、ずっと飲んでいたら効きも悪うなるようで、効いたり効かんかったりした。次第に、眠りも浅く足の動きも悪くなってきとったけど、臣がおらんのやからもうええかって、近頃はどこかで思っとった。
その、ずっと続いとった痛みが、無い。
点滴ってのは、えらいもんやなと、未だ繋がれとる管を眺めた。
「手伝いはいりますか?」
咄嗟に身構え、薄暗い室内に目を凝らす。
ベッドのすぐ横。気付かなかった……。
「半助……」
つい、苦々しく吐き出してしまう。
「俺で申し訳ない。さっきまで臣もおったんやけど」
「……何時や」
「五時半です」
「五時半」
おやつの時間からやったら、二時間ほど。それにしては……。
「まさか」
「はい」
「朝か……」
「ええ」
そりゃまた、よう寝たもんや。
とりあえず、用を足すことにした。
ベッド脇に置かれていた靴を履いて立ち上がっても痛みはなく、まるで自分の足や無いような気ぃさえする。繋がれたものを外すこともできず、棒を持って動こうとして、はたと辺りを見渡した。
「この部屋は?」
「貴方がしばらく過ごす部屋です。入院することになったとお聞きしました」
「らしいな。移動したんか」
「はい。トイレへ案内します」
「……」
椅子から立ち上がっていた半助に、いらんと言いたいがそれもできん。
薄暗い中も迷わず歩く背中について行って用を足し、与えられた部屋へ戻ると、水差しからコップへ注いだ水を手渡された。片手で色々と器用なことだ。有り難く飲んでベッドへ戻る。点滴に繋がれていては、どうしようもない。
それに、痛くない。
「俺が仕事に行く頃には、臣が一度戻ってくるんで。きっと朝食を持ってくると思います」
朝食を作りに行ったんか。屋敷勤めの料理人の朝が早いのはどこでも変わらんからな。
…………。
「さっきまでここにおった言うたな。あいつ、ちゃんと寝たんか」
「夜は、何とか連れて帰りました。源さんが目ぇ覚ましたら、必ず連絡をしてもらうことを夜勤の方と約束して」
「そうか」
「連絡はなかったのですが、臣、あんまり寝れんかったようで早うに目ぇ覚ましてしもて」
「そうか」
「様子を見てから仕事に」
「大したこと無いのに、阿呆やな」
「よう寝とる、と喜んでいました」
「そうか……」
あの子は、俺がよう寝れとらんことに気付いとったんか?
普段ぽやぽやとしとるくせに、大事なことだけちゃんと鋭いとか、そりゃ反則やろ、臣。
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