【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

26 アイスクリーム  成人

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 ご挨拶が済んだら、すぐにおやつの時間だ。食堂と厨房の間の戸が開いて、鶴丸つるまるたちの使用人と広末ひろすえ村次むらつぐ壱臣いちおみが、一斉にアイスクリームを運んで来てくれた。

「今日は座っててください。人手がありますから、置いて回りますよ」
「はーい」
「はいっ」

 俺が返事をしたら、亀吉かめきちも真似してお返事をした。皆、にこにこ笑った。松吉まつきちが、ようできたねって頭を撫でて、亀吉かめきちもにひゃと笑った。
 亀吉かめきちは、本当にお話が上手だ。末良すえよしのはいってお返事は、あいって聞こえることが多いのに、亀吉かめきちはちゃんと「はい」だった。

「こりゃ賢い若様だ。若様も、冷たいもの食べて大丈夫ですか?」
「ええんちゃう?何でも同じもんを食べたがるから、ほな食べてみたらええって、もう何でも渡しとる。まあ、喉に詰まらんもんなら大丈夫やろ」
「ははっ。うちもです。食べるのが大好きで、何でも味見したがります」
「ははっ。どこも一緒やな」

 広末ひろすえ鶴丸つるまるがお話して、亀吉かめきちの前にも小さなアイスクリームが一つ置かれた。亀吉かめきち松吉まつきちの膝の上に座っているので、目の前のアイスクリームは、大きいのと小さいのが二つ並んでいる。亀吉かめきちは、真剣な顔でアイスクリームを見ていた。松吉まつきちも、亀吉かめきちとそっくりの真剣な顔で眺めている。
 ふふっ。分かるよ。俺も初めて見た時は、しばらくそうして眺めてた。少しずつ溶けていくのが、何だか綺麗で、美味しそうでいい。冷たくて固いのが、とろってする瞬間がとても綺麗。でも、ずっとそうしていると溶け過ぎて、綺麗でも美味しくもなくなってしまう。ああ。なんて、難しい食べ物なんだろ。溶けかけるほんのちょっとの間が一番綺麗で美味しいなんて、本当にすごい。

「いただきます、する?」
「ん」

 俺の言葉に亀吉かめきちははっとして、ぱちっと手を合わせた。

「たーだきましゅ」
「どうぞ」
「はいっ」

 良い返事をした亀吉かめきちは、手にしたスプーンを大きい方のアイスクリームにえいっと突っ込んだ。
 あれ?

「わあ、かめ。それは母のや」
「ん?」
かめのはこっち」
「ん?」

 あんまり上手な動きじゃない亀吉かめきちのスプーンにはほんの少ししかアイスクリームが乗らなかったけど、亀吉かめきちは気にせずあむっとお口に持っていった。冷たいよ?大丈夫かな。
 アイスクリームを口に入れた亀吉かめきちは、びっくりした顔の後、ん、ん、と口を動かしてから、ぱあっと笑った。

「んまっ」

 美味しいってことだな、きっと。可愛い顔で笑ってる。亀吉かめきちのスプーンは、大急ぎでもう一度大きいアイスクリームに向かって、突っ込まれる寸前でひょいと松吉まつきちに取り上げられた。

「あー!」
「これは母の!亀吉かめきちのはあっち」

 松吉まつきちはそう言いながら、持ち上げた大きいアイスクリームにスプーンを入れてすくい上げる。いただきます、と言ってからあむっと食べた。

「……っ!」

 びっくりした顔も亀吉かめきちとそっくりな松吉まつきちが、しばらく口を閉じてからふわあ、と言った。

「おいしっ。なにこれ、美味しい!溶ける。おいしっ」

 喜んでもらえて良かった!
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