【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

39 もう一つのおうち  成人

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 部屋の中に、いい匂いがし始めた。たこ焼きを焼くための道具に火が入ったみたいだ。何回も使っている調理道具は、よく洗っていても匂いが染み付いていて、温めるだけで美味しそう。

「おっと、いけねえ。仕事の時間だ。なる坊、末良すえよしのこと頼んでもいいか?」
「もちろん」

 末良すえよしは、広末ひろすえが、お父さんはたこ焼きを焼いてくるぞって言って側から離れても、うんって頷いただけだった。積み木で遊ぶのに忙しいんだな。亀吉かめきちと二人ですっごく楽しそう。

「こえ、なに?」
「とら。がおー」
「がおー」

 末良すえよしが積み木を持って聞くと、亀吉かめきちがすぐ答えてくれる。よく知ってるねえ、亀吉かめきち。すごい。

「こえは?」
「にゃー」
「にゃー」
「猫や」

 鶴丸つるまるが横から口を挟んだ。

「ねこや?」

 末良すえよし、ねこがにゃーになって、ねこやになった。

「ああ、ちゃうちゃう。やはいらん」
「ちゃうちゃう?」
「あはは」

 ねこやからちゃうちゃうになった。面白い。
 末良すえよしは、離宮にいる時に、お父さんもお母さんも見えなくても泣いたりしない。平気で遊んで、おやつもご飯ももりもり食べて、眠くなったら寝ちゃう。大好きな俺や乙羽おとわもいるし、全然平気なのよねえって斑鹿乃むらかのが言っていた。末良すえよしのもう一つのおうちだから安心していられるんだって。それを聞いた時、俺はすっごく嬉しかった。末良すえよしは俺の家族のままなんだって知ったから。違うおうちに住むようになったけど、広末ひろすえ斑鹿乃むらかの末良すえよしは家族のままなんだ。ここは末良すえよしのもう一つのおうち。もう一つのおうちなら、一緒に住んでる好きな人の中に入っている。良かった。
 同じおうちに住んでいる好きな人が家族。じゃあ違うおうちに住むようになったら家族じゃなくなるのかなって考えたことあったけど、もう一つのおうちがあるだけだから家族のままだったってことだ。それなら、緋椀ひまり作治さくじも家族のままだなって分かったし、嬉しかった。
 斑鹿乃むらかのは今、乙羽おとわ松吉まつきちと近くに座って、楽しそうにお話してる。泣き止んだ朱音あかね殿下を連れた赤璃あかりさまも合流して、皆にこにこと笑っていた。斑鹿乃むらかのにも、ここはもう一つのおうちだから楽しいんだよね。
 良かった。
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