【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

60 普通の日  成人

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 鶴丸つるまるたちが帰った離宮いえの中は、何だかすごく静かだ。うちってこんなに静かだったかな。いつも通りなんだけど、すごく静かに感じる。不思議。
 いつも通りにお茶を配りながら、皆元気が無いから静かなのかなーって見てみたけど、普通だった。普通。普通に普通。いつも通り。元気一杯って訳でもないし、元気がない訳でもない。だから普通。多分、一番いいやつ。普通が一番、とか自分のおうちが一番ってよく聞くから。
 あ、でも。

政巳まさみはちょっと元気ない?」
「俺ですか?」
「うん」
「いや。うーん。まあ普通です」
「そう?」

 今日は村正むらまさは、村正むらまさの仕事部屋にいない。政巳まさみはこの部屋に一人だ。一人で仕事をしていたら、元気がなくなることもある。村正むらまさはずっと部屋にいる人じゃないから、政巳まさみの元気がない日もずっと一人。一人でいると、もっと元気がなくなっていくのかも。
 あ、それなら、仕事を持って緋色ひいろの仕事部屋に行ったらどうかな? そうしたら、絶対に誰か人がいるから、一人でいるより元気がでるかもしれない。

緋色ひいろの仕事部屋に行く?」
「え? 殿下の仕事部屋? 何で……。ああ、ええっと……」

 政巳まさみは自分の頬を大きな手で撫でた。

「そんなに元気ないですかね?」
「んー?」

 気のせいかな。ま、いいんだけど。

「あー、まあ、そうですね。ええっと。俺はこの部屋の留守番だから、頭領がいない時は特に、この部屋から動けないんです。だから、緋色ひいろ殿下の執務室には行けません。でも、誘ってくださってありがとうございます」
「ん、分かった」

 皆にお茶を配り終えて空のワゴンを押していたら、廊下の窓を拭いている水瀬みなせがいた。水瀬みなせは普通。たぶん。

水瀬みなせ政巳まさみは今日、普通だった?」
政巳まさみ、ですか?」
「うん、そう」

 水瀬みなせから見て普通なら、きっと普通なんだろう。今日はおうちが静かに感じる日だから、元気がないように見える人もいるってことだ。

「分かりません」
「そっか」

 水瀬みなせに分からないなら、仕方ない。

「あれ? 水瀬みなせ、時計は?」
「ああ。時間が合っていなかったので、数日前から外して置いてあります。時間のある時に直そうと……」

 水瀬みなせは、話すのをやめて少し考えた。

「後で政巳まさみの所へ行ってみます」

 そう?
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