【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

113 ちゃんとしてる人  成人

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「帰る先があるなら、すぐにでも帰ったらええ」 

 話を聞いた玉鶴たまつるは、優しくその人たちに言った。

「先ほどのあの女には、ああ言うたけどな。この場の全員を、着の身着のまま放り出すような事はせんよ」

 ああ、とあちこちで声が上がった。泣き出す人が増えた。

「奥方様。ここには、使用人もぎょうさんおります。その者らは……」

 子どもを抱き寄せている人が、口を開いた。

「正直に言う。全員の仕事を斡旋するんは無理や。ここは閉じるから、全員いらんくなる。最後の片付けだけしたら、もうおしまい。色々思うことはあるやろうけど、これは決定や。覆る事はない。皇国からお越しの緋色ひいろ殿下と、その御伴侶の成人なるひと殿下、西宗さいそう国からお越しの上様と次期様、次期様の御伴侶まで立ち会ってくださっての決定や」

 皆、真剣な顔で玉鶴たまつるの言葉を聞いていた。急に立ち上がったりとかせず、座って、真剣に玉鶴たまつるを見上げている。三人いる子どもも、安心できる人の側からうろうろと動いたりはしなかった。それぞれ誰かにしがみついて、じっとしているから、賢い。灯可とうかくらいの子どもが一人と、末良すえよしより少し大きな子どもが一人と、もう少し小さな子どもが一人。小さな子どもは、泣いた後、抱っこされて寝てしまっていた。亀吉かめきちもねんねしたから、一緒だ。
 無礼なのは、きらきらの着物の人だけだったみたいだ。
 玉鶴たまつるは、項垂れたまま立っている真中だった人をちょっと見てから、座っている人たちに向かって言葉を続ける。

「ここの主やった者はな、二月ふたつき前に、罪を犯して地位も名字も剥奪されとった」

 びくっと真中だった人が肩を震わせた。俺が、弐角にかくの結婚式の時に下した罰だ。名字無しの暮らしをしなさいって言ったのに、知らん顔して、まだお城にいて、誰にも頭を下げていなかった。だから、また罪は重くなった。

「相応の罰を受けなあかんから、そなたらを養うことが難しくなっとる。こんだけの伴侶を持てるもんなのかも、この国の法を詳しく調べんと分からんのやけどな。もし、籍の入った正式な夫婦という訳や無ければ、そなたらに何らかの補償をする事は難しい。連帯責任は課されんで済むから、それは良かったんかもしれんけど」
「お優しいお言葉、ありがとうございます。そういった正式な手続きは踏んだ覚えがございません」
「そうか……」
「けど、それでええです。この後の仕事さえ見つかれば」

 玉鶴たまつるに答えている人は、末良すえよしより少し大きい子を、更にぎゅっと抱き寄せて言った。

「うん、そうか」
 
 玉鶴たまつるは、大きく頷いた。

「さっきの話を聞いとったと思うけど、うちらはここに住む気がない。この城は広すぎて、孫の子育てがしにくいでなあ。子持ちのあんたなら分かるやろ? だからと言うて、私らの新しい家に置く人間もそないに要らん。そんな広い屋敷に住む気も無いんでな。けどまあ、ここで働いとったいう証書くらいは書ける。それでどうやろ? 城で働いとったいう経歴は、他の仕事に就くんにちょっとは有利になるんちゃうか」
「なります、なります。ありがとうございます」

 礼儀正しく平伏した人に、玉鶴たまつるはにっこり笑った。ちゃんとしてる人とは、ちゃんと話ができていい。

「本日ただいまより、この場所からの出入りを自由とする。行き先が決まるまではここを使ってええから、ここを拠点にこの先の暮らしを整えなさい。使用人たちにも同様に伝えておくれ」
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