【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,206 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人

163 礼儀  成人

しおりを挟む
常陸丸ひたちまる、下ろして」
「大丈夫か?」

 常陸丸ひたちまる乙羽おとわを抱き上げたまま、下ろそうとしない。いつもは、きりっとした眉が、優しい目尻と同じようにへにょって下がっている。

「大丈夫」
「さっきふらついていた」
「寝起きだったから」
「なら、今も寝起きだろ」
「あら、そうね」
「なら、このまま城の中へ入ろう。ひと休みしてくれ」

 絶対、下ろさないつもりだな。

「寝ながら来たって言ってるでしょ? 寝起きのひと休みって何?」
「それは、あれだ。ほら。移動、移動で疲れてる」
「寝てたら着いたから、大丈夫」
「寝るのも疲れるからな」

 ふふ。そういう時もあるけどさ。今の乙羽おとわは、元気そうだけど?

「もうっ! 緋色ひいろ殿下にご挨拶するから下ろしなさいって言ってるの! だいたい、護衛のくせに職務中に殿下のお側を離れるなんてどういう事? 殿下に何かあったらどうするのよ」

 あーあ、怒られた。

「大丈夫だよ。守備範囲内だ」

 常陸丸ひたちまるがこちらへ近寄りながら言う。やっぱり乙羽おとわは下ろさない。
 少し距離が開いていたけれど、大丈夫な範囲内だったのか。敵の気配を感じてから動いて緋色ひいろを守れる範囲。かなり広い。流石、常陸丸ひたちまる。格好良い。
 乙羽おとわを抱いているから手が塞がっているけど、足が空いてるもんな。うん。さっきの速さならこのくらいの距離は詰められるし、足で攻撃できる。こっちに力丸りきまるもいるから、連携できるしね。
 常陸丸ひたちまるの言葉を聞いた香月かづきから、ぐうっておかしな音が聞こえた。
 ん? また眉間に皺を寄せてるな?

力丸りきまるさん。滞在中に時間があれば、手合わせ願いたく」
「ん?」
「是非」

 おお。香月かづきも手合わせしたい人? 鶴丸つるまる松吉まつきちと一緒だね。

「もちろん」

 力丸が笑って頷いた。いいな。楽しそうだな。
 常陸丸ひたちまるやじいじ、半助はんすけも呼んだらいい。今なら皆いるし、手合わせ、し放題だ。あ、鶴丸つるまる松吉まつきちもしたいかもしれないな。書類の息抜きに、皆で鍛錬所に顔を出すのもいいね。

「見たい」
「へ?」
「手合わせ、俺も見たい」
「おう。じゃ、後で行こうぜ」
「うん」
「はいっ」

 亀吉も、俺たちを見上げながら元気に返事をした。ん? 亀吉も行くの? 亀吉のお昼寝時間に行こうと思ってたんだけど。

「手合わせ見に行くの?」

 分かってるのかなーって思って聞いてみたら、亀吉は、にこにこで頷いた。手合わせ、分かるのかー。

「すえーしも」

 亀吉が、末良すえよしの手を繋いで言った。

「ん? 末良すえよしも行くの?」
「はいっ」
「ん? んー?」

 末良すえよしは、手合わせに興味ないんじゃないかなあ。ねえ? ほら、末良すえよし、首を傾げてるよ? まあ、いいんだけど。
 俺と末良すえよしが首を傾げているうちに、車から降りてきた人たちが目の前にずらりと並んだ。あ、東那とうなも来たんだ。他に一ノ瀬が二人。生松いくまつと源さんはいないな。後からかな? お留守番かな?
 あ、乙羽おとわが下ろしてもらって立っている。

緋色ひいろ

 名前を呼んだら、俺も下ろしてもらえた。
 末良すえよしが、あって言って亀吉の手を振りほどいて走って、広末ひろすえ斑鹿乃むらかのの間に立った。

緋色ひいろ殿下と成人なるひと殿下、並びに各務かがみの若君にご挨拶申し上げます。緋色ひいろ殿下のおめしにより、泉門院せんもんいん乙羽おとわが殿下方の家族を連れて、馳せ参じましてございます」

 乙羽おとわの挨拶が格好良くて、全員で一斉にする包拳礼が格好良くて、俺はすっかり見惚れてしまった。末良すえよしも周りを見て真似をして、ちゃんと包拳礼をしている。

乙羽おとわ、ご苦労。皆もよく来た。頼りにしている」

 緋見呼ひみこさま仕込みの、と緋見呼ひみこさまが言っていた乙羽おとわの挨拶も、緋色ひいろの返事も本当に格好良い。礼儀って大事なんだなあ。うん。大事だ。
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...