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第十章 されど幸せな日々
16 それは仕事じゃない 成人
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「泣いちゃったかな」
いっしょいくー、の後で、びゃあっと聞こえたので振り返ったら、香月の腕の中で身を捩っている亀吉が見えた。
泣いちゃったな、きっと。
「子どもは、思い通りにいかなければ泣くもんだ」
お利口さんな亀吉も泣くんだね。ちゃんと子どもだった。
ちゃんと子ども、って言い方おかしいかな? いや、でも、緋見呼さまが前に言っていた。灯可は、俺と遊ぶようになってちゃんと子どもらしくなった、って。良いことだ、って。
だから、これはきっと良いことだ。
「バス、乗りたかったんだ」
乗りたいよね。バス、知らなかったみたいだし。
俺も今、バスに乗れてちょっとわくわくしてるもん。
「それもあるが、お前と離れるのが嫌だったんだろ」
「え?」
「お前と一緒にいたかったんだろ」
「そう?」
そうかな。そうかも。亀吉、いっしょいくって言ってたもんな。俺と一緒にバスに乗りたかったのか。
そうか。
「仕事を頑張りすぎなんじゃないか?」
「え?」
緋色が、窓の外を見ていた俺の頭を抱え込む。そのまま、緋色の胸の所に、きゅっと頭を押し付けられた。
仕事?
「チビたちの世話をする仕事」
「ああ」
あれは、仕事っていうか、一緒に遊んでいるだけというか。
「真剣に向き合っているから懐くんだ」
「……」
そう? そういうもの? 俺は、楽しく一緒に遊んでいるだけなんだけどね。
灯可や見可といる時と一緒だよ。亀吉とも末良とも、いつも色んな事を一緒にしているだけ。仕事なんかじゃないよ。勉強も遊びも、一緒にしたら楽しいからしてる。灯可には色々と教えてもらっているから、逆に俺がお世話されている側なんじゃないかな。
「俺にはできん」
「ええ?」
「同じことを何度も繰り返されたり何度も言われたりすると、まだやるのか、とうんざりする」
「ふふ」
小さい子は、気に入ったことを何度も繰り返してしたり言ったりする。同じことをして、同じ所で何度でも笑う。可愛い。
「殿下は、少々気が短すぎる。わしの思い出話も、まだ触りを言うか言わぬかのうちに、それは前も聞いたと遮りよる」
俺たちの前の席に、元真中と並んで座っているじいじが振り返って言った。
「じじいも、小さい子どもと同じってことだ。同じ話を何度も繰り返して、うるさいったらありゃしない」
「成人は、いつも笑って聞いてくれるというのに」
「聞いてくれる者がいるなら、聞いてくれる者に話せばいい」
「まったく。そうしてすぐ突き放すから、恐いと誤解されるんじゃ」
「誤解でもなんでもないが?」
わはは、とじいじは笑った。
誤解だよ。緋色は恐くない。優しい。嫌そうな顔して聞かれるより、その話はもう聞かなくていいって早くに教えてくれる方がずっといい。
少し顔を上げて緋色を見たら、緋色はにやって笑った。
「な。子どもの世話もじじいの世話も、限られた人間にしかできないんだ。それができるお前はなかなか凄い」
そうか。俺、お仕事、ちゃんとできてたのか。
「また頑張る」
「そんなに頑張らんでいい」
「え?」
「俺の世話を優先しろ」
「あは」
それこそ、それは仕事じゃない。いつでも、俺が一番最初にやりたい事で、誰にも譲りたくないことだ。
いっしょいくー、の後で、びゃあっと聞こえたので振り返ったら、香月の腕の中で身を捩っている亀吉が見えた。
泣いちゃったな、きっと。
「子どもは、思い通りにいかなければ泣くもんだ」
お利口さんな亀吉も泣くんだね。ちゃんと子どもだった。
ちゃんと子ども、って言い方おかしいかな? いや、でも、緋見呼さまが前に言っていた。灯可は、俺と遊ぶようになってちゃんと子どもらしくなった、って。良いことだ、って。
だから、これはきっと良いことだ。
「バス、乗りたかったんだ」
乗りたいよね。バス、知らなかったみたいだし。
俺も今、バスに乗れてちょっとわくわくしてるもん。
「それもあるが、お前と離れるのが嫌だったんだろ」
「え?」
「お前と一緒にいたかったんだろ」
「そう?」
そうかな。そうかも。亀吉、いっしょいくって言ってたもんな。俺と一緒にバスに乗りたかったのか。
そうか。
「仕事を頑張りすぎなんじゃないか?」
「え?」
緋色が、窓の外を見ていた俺の頭を抱え込む。そのまま、緋色の胸の所に、きゅっと頭を押し付けられた。
仕事?
「チビたちの世話をする仕事」
「ああ」
あれは、仕事っていうか、一緒に遊んでいるだけというか。
「真剣に向き合っているから懐くんだ」
「……」
そう? そういうもの? 俺は、楽しく一緒に遊んでいるだけなんだけどね。
灯可や見可といる時と一緒だよ。亀吉とも末良とも、いつも色んな事を一緒にしているだけ。仕事なんかじゃないよ。勉強も遊びも、一緒にしたら楽しいからしてる。灯可には色々と教えてもらっているから、逆に俺がお世話されている側なんじゃないかな。
「俺にはできん」
「ええ?」
「同じことを何度も繰り返されたり何度も言われたりすると、まだやるのか、とうんざりする」
「ふふ」
小さい子は、気に入ったことを何度も繰り返してしたり言ったりする。同じことをして、同じ所で何度でも笑う。可愛い。
「殿下は、少々気が短すぎる。わしの思い出話も、まだ触りを言うか言わぬかのうちに、それは前も聞いたと遮りよる」
俺たちの前の席に、元真中と並んで座っているじいじが振り返って言った。
「じじいも、小さい子どもと同じってことだ。同じ話を何度も繰り返して、うるさいったらありゃしない」
「成人は、いつも笑って聞いてくれるというのに」
「聞いてくれる者がいるなら、聞いてくれる者に話せばいい」
「まったく。そうしてすぐ突き放すから、恐いと誤解されるんじゃ」
「誤解でもなんでもないが?」
わはは、とじいじは笑った。
誤解だよ。緋色は恐くない。優しい。嫌そうな顔して聞かれるより、その話はもう聞かなくていいって早くに教えてくれる方がずっといい。
少し顔を上げて緋色を見たら、緋色はにやって笑った。
「な。子どもの世話もじじいの世話も、限られた人間にしかできないんだ。それができるお前はなかなか凄い」
そうか。俺、お仕事、ちゃんとできてたのか。
「また頑張る」
「そんなに頑張らんでいい」
「え?」
「俺の世話を優先しろ」
「あは」
それこそ、それは仕事じゃない。いつでも、俺が一番最初にやりたい事で、誰にも譲りたくないことだ。
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