【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,226 / 1,325
第十章 されど幸せな日々

17 変わらない景色  成人

 バスはどんどん走っていく。賑わっていた辺りを過ぎると、途端に建物の数が少なくなった。人の姿も少なくなっていく。畑や山が見え始めて、西賀さいか国に向かっているんだな、って感じがした。今日は曇りだから、午前なのに外は明るくない。雨が降りそうで降らない天気。そんな天気だから、頭が痛くならないようにって、睦峯むつみねに薬をもらって飲んできた。薬はよく効いている。俺は今日も元気。
 元気なんだけど、緋色に右手を握られながら外を眺めていたら眠たくなってきた。車って、乗っていると眠たくなることが多い。揺れ具合がちょうどいいんだろうか。車の中を温めてくれている暖房がちょうどいいんだろうか。走っている音とかも、眠くなるのにちょうどいい音なのかもしれない。
 荷台に乗っていた頃も、そこで休息を取っていたな。暑かったり寒かったり、揺れはもっと激しくて眠くなるような環境ではなかったけれど、移動中だけは何も考えずに座っていられた。
 だから、車で移動するのは嫌いじゃないんだ、きっと。
 数少ない休息の時間が、そこにあったから。
 
「眠いなら寝ていろ」

 緋色ひいろが手を伸ばして、俺の頭を自分にもたれさせた。
 幸せな時間にぼんやりしかけて、はっと気付く。
 運転してる人は眠くなったりしないのかな? 乗っていたら同じように揺れを感じたりするんだから、運転手だって眠いかもしれない。そういえば、長い距離を運転する時に常陸丸ひたちまる力丸りきまるが運転を交代しているのを見たことがある。あれはもしかして、眠くなった時だったのかもしれないな。今日は交代する人がいないけれど、大丈夫だろうか。じいじも運転できるんだったっけ? 
 さっき、力丸りきまるも一人で運転して皇国に帰って行ったな。大丈夫だったかな。
 やっぱり、力丸りきまるは俺たちの側にいてくれた方がいい。

「本当に……?」
「なんじゃ?」
「本当に、出るんか……」

 元真中の呟く声が聞こえた。

「やっと理解したか?」
「わしがおらん、西中さいちゅう国、など……」
「それはもう何度も聞いた」

 ふふ。何回も繰り返された話だったみたいだ。じいじがすぐに遮った。元真中は大きな子どもだから、何回も同じことを言うのかもしれない。覚えるまで、何回も。

「よいか。お主がおらんでも、西中さいちゅう国は存在しとるし存続しとる。大きな混乱も起こっとらんことは、たった今見てきた通りじゃ。城も、街も村も、何も変わりなかったであろう? お主が、国の元の姿を知らねば、その事も知りようは無いわけじゃが」
「なんで……? なんで、混乱もない……?」
「お主のしていた仕事は、他の者でもできる仕事だったようじゃな」
「……」

 城も、街も村も混乱はなかった。窓から見える景色は、俺たちが西賀さいか国から来た時と変わりなかった。
 元真中たちがいなくなっても、何も変わらない。
 それが、バスの窓からはっきり見えた。
 混乱がなくて良かった。でも、自分が居てもいなくても何も変わらないって分かるのは、ちょっと寂しいことかもしれない。
 
感想 2,501

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。