【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

36 聞いてるだけで楽しいやり取り  成人

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「ほな、あの、どうぞ……。散らかってますけど……」
「なんやそれ、自分ちか」
「あはは。やすさん、おもろ」

 やすさんが、腰を低くしたまま風呂屋の入り口へ案内してくれる。寿々丸すずまる千寿せんじゅが、そんなやすさんを見て大笑いしていた。ぼうさくも、顔をうつむけて肩を震わせている。

「誰のせいやと……」

 それを見て肩の力を抜いたやすさんは、ため息を吐きながらぶつぶつ言った。そのぶつぶつが怒ってる声じゃなかったから、ほっとした。
 先触れなしで来てごめんね、って謝ろうかどうか迷っていたら、近寄ってくる人の気配がした。

「あれ? 嬢ちゃん? 坊ちゃん? 今日貸し切りですか?」
「こんにちは、おっちゃん。貸し切りちゃうよ。うちら、急に来たんや。ごめんな」
「体だけ流したらすぐ出るで、気にせんといて」
「そうかー。そういや、嬢ちゃん、坊ちゃん、なんて気軽に言われんくなったんやったな。姫様、若様にはご機嫌麗しゅう」
「ぶっ」
「あはははは」
「はい、麗しいでー」
「ほら、姫様、若様、はよ入ってください。後がつかえとります」
「はいよー」

 千寿せんじゅ寿々丸すずまるがしゃべるのを聞いているのはとても楽しい。何を言っているかよく分からない時も、何だか響きが楽しくて笑ってしまう。しゃべっている千寿せんじゅたちも、だいたい笑ってるしね。

「殿下、こっからお入りください。坊ちゃん、あーいや、若様がこの後は案内してくれる思いますんで、お、おれ、いや、わし? わたし? は仕事に戻らせてもらいますんで」
「仕事」
「はい」
「おお」

 お風呂屋さんのお仕事。そうだよね、お店屋さんだもん。仕事あるよね。
 俺が頷くと、やすさんはぺこぺこしながら中に入っていった。

「殿下。一緒に入りましょ」

 寿々丸すずまるが、ひょいと横に来てくれる。

「うん」

 少し離れた所に立っているじいじを振り返ると、にこにこして頷いてくれた。
 じいじとさくもすぐ後ろに続く。千寿せんじゅぼうは違う入り口。

「ほな、後でー」
「はーい」

 ってお別れして、中に入った。入るとすぐに、少し高い台に座ったやすさんがいて、はい、いらっしゃいって言った。
 おお。お店屋さんだ。
 あ、あっちに千寿せんじゅぼうも見える。中、繋がってるじゃん。

「こっち四人ね」
「こっち二人」

 寿々丸すずまる千寿せんじゅやすさんに何か渡した。

「まいど。あ、坊ちゃん。風呂に入らへんお人の分はええよ」
「いや、でも、中には入るで?」
「湯も使わんのやから、ええ、ええ」
「そう?」

 ちゃりん、と寿々丸すずまるの手に戻ってきたのはお金だった。

「あ、お金? 俺、お金払うよ」

 鞄にいつも持っているからね。自分で稼いだお金。任せて。

「風呂に入らないなら、いらないそうです。甘えましょ」
「そう?」

 いつか緋色ひいろと入りに来よう。その時は、ちゃんとお金払おう。
 お風呂屋さんは入り口でお金を払う。覚えた。
 
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