【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,287 / 1,325
第十章 されど幸せな日々

78 戻りましたのご挨拶  成人

しおりを挟む
「ただいま戻りました」

 緋色ひいろと俺は立ったまま頭を下げて、俺たちと一緒に戻ってきた常陸丸ひたちまる乙羽おとわ壱臣いちおみ半助はんすけは膝をついて包拳礼をした。

「ご苦労だった。おもてを上げよ」

 父さまが、いつも通りに言う。
 顔を上げると、いつも通りにほんの少し笑ったような顔の父さまと朱実あけみ殿下と赤璃あかりさまがいた。朱実あけみ殿下はいつも通りより、もう少し笑っているかも? いや、いつもあんなのかな。ま、いいや。皇族の表情かおの時に、何も分かるわけがない。赤璃あかりさまは、にこにこ笑っていたから、俺もにこってしておいた。何だか久しぶりだ。朱音あかね殿下、元気かな? あっちの子どもたちは元気いっぱいだったよ。

「帰国までに、ずいぶんと時間がかかったな」
「はい」
「……。西国は落ち着いたか」
「いえ」
「……。そうか」

 謁見の間は、しーんと静かになる。
 父さまや俺たち以外にも人はたくさん並んでいるし、何か書いている人もいるんだけど、誰もが息もしていないんじゃないかってくらい静かになった。
 終わり? 挨拶終わりかな?
 は、と小さく息を吐いたのは朱実あけみ殿下。

緋色ひいろ。もう少し詳しく説明しなさい」
「報告書は提出してあります」

 うん。報告書が提出してあるなら、それでいいか。今は、戻りましたの挨拶をしにきたから、戻りましたって言ったら終わりかな?

「色々と騒動もあったようだが、大体は予想の範囲だったのだろう? つつがなく事は進んでいるかな」
「ああ、まあ。はい」
「お前の直属の者たちを手伝いに送ったのだけれど、役に立ったかな」
「……あー、その。とても、助かりました」
 
 朱実あけみ殿下はにっこり笑った。

「それは良かった」
「あー、まあ。はい」
「今回の帰国はこれだけ? 他はまだ西中さいちゅう国に?」
「はい。残して参りました。各務かがみ一族は大変有能ですが、西賀さいか国との二国を治めるには人手が足りず、まだしばらくあちらで手伝いたいと考えております。つきましては、新年の集まりの後、再度西中さいちゅう国へと赴く許可を頂きたく」

 おお。緋色ひいろが丁寧にしゃべって頭を下げている。俺も、慌てて一緒に頭を下げた。何か、お願い事? ちょっとよく分からなかった。

「手伝いが必要なことは理解している。あの大きな国が揺らぐことは、皇国にとって看過できない。揺らぐ前に対処できたことは僥倖であった。もちろん、差し伸べた手を急に引き上げるようなことはせぬ。しかし、お前がわざわざもう一度行くことはないのではないかな?」
「手伝いに入っているのはうちの者です」
「私の手の者も貸しているんだけれどね?」
「では、兄……皇太子殿下の手の者は引き上げられるとよろしい」
「それでは、連絡を取るのも難しいだろう?」
西中さいちゅう国には電信装置がありました。連絡はそれで」
「離宮の電信装置と繋いだんじゃないだろうね?」
「あ」

 朱実あけみ殿下は、すっかり皇族の顔じゃなくなって緋色ひいろと話している。緋色ひいろも、たくさんお返事してる。
 にこにこじゃなくなっていた赤璃あかりさまは、またにこにこになった。

朱実あけみ緋色ひいろ

 父さまが変わらない表情かおで言った。

「今は、帰国の挨拶だ」
「は」
「は」
「無事で何より。今後の話は、また後ほど時間を取ろう。以上だ」
「は」

 あ、終わりだ。今、分かりやすかった。

「失礼いたします」

 朱実あけみ殿下とは、またいつでも話せるしね。
 頭を下げて出て行こうとした俺たちに、父さまの声がする。

緋色ひいろ、妃も心配していた。成人なるひとと共に顔を見せてゆけ」 

 妃?
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...