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第十章 されど幸せな日々
84 やさしい話し方
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「あのう。失礼ながら申し上げます……」
壱臣が、そっと声を上げた。優しく話そうとしているのかもしれない。俺もさっき、雫石母さまが怖くないように話そう、って考えたもん。でも、壱臣はそんなことしなくても声が優しい。話し方も優しい。そこに居るだけでふわふわと優しい感じがする。壱臣のことが怖かったら、雫石母さまが話せる人はきっともうどこにもいない。
「今はもう夕刻で、夕食までそれほどの時間がありません。この時間から夕食の人数を変更されるいうのは、あまりに大変なお申し出やと思われます。皇城のお料理は、陛下と皇妃殿下のお口に合うようにすでに繊細な味の調整がなされとるので、その同じ料理の材料を更に二人分増やして、緋色殿下と成人く……成人殿下の口に合うように調整するんは難しいです」
緋色が頷くのを見て、壱臣は続けた。しっかり包拳礼をしながら言った。料理の話だから、すらすらとたくさん話している。
母さまの濡れた大きな目が、ぱちぱちと瞬いた。
「あの。それと、うちでは、うちの父、ええっと、養い親が、緋色殿下と成人殿下、それに、うちや乙羽さまや半助、常陸丸の好物をたくさん作って待ってくれとります。久しぶりやから、きっとたくさん作ってくれとるはずです。成人く……殿下は、それを楽しみにしてくれとりました。皇妃殿下のお誘いをお受けすると、それが食べられんくなるんです。だから、今日、皇妃殿下と緋色殿下、成人殿下がお食事を共にするんはできんのやと、そういうお話で……」
「う。うう……」
母さまがまた、顔を手で覆って泣き出したように見えたので、壱臣の優しい声はどんどん小さくなっていった。
何か泣くような話があったかな。とても分かりやすい説明だったけれども。
「私、私はただ、家族で食事を、と。それだけ。それだけなのに」
ひく、ひく、と泣きながら告げられた言葉。家族、家族か……。俺の知っている家族は、一緒に暮らしている仲良しな人。だから、雫石母さまは、俺たちの誰の家族でもない。だけど、一緒に暮らしていなくても仲良くなくても、血の繋がりのある人は家族なんだと聞いたから、雫石母さまと血の繋がりのある緋色が雫石母さまの家族なんだってことは知っている。伴侶も家族になるから、俺も家族。
でも、一緒に暮らしていない家族は、食事を一緒にしようと急に言っても難しい。だって、俺たちの家では、源さんがもう俺たちの好きな料理を作って待ってくれている。
雫石母さまの家では、雫石母さまや父さまが食べやすい食事が準備されている。
「母さま。俺たちは住んでいるのが別のおうちだからさ。だから、ええっと、先触れとか、あの、なんだろ? 約束? 約束かな? うん、約束をしてから、一緒にご飯食べよう?」
怖がらせないように喋るのって難しい。これで合っているのか分からないし。末良や亀吉に喋るみたいにすればいいのかな? いや、でも、二人を相手にした時のやさしく、っていうのは、知っていることの少ない二人にも分かりやすくってことだ。今考えているやさしく、とちょっと違うような気がする。
可愛い二人の前では思わずにこにこして優しい顔になるのは、当たり前の事だし。
「そんなこと言って、緋色さんはどうせ断るじゃないの」
はあ、と緋色はため息を吐いた。
「もう二度と、共に食事をする者の食べ方、飲み方が汚いなどと口にしない、突然泣き出したり不機嫌になったりしない、と誓約書を書いて頂けるのなら考えます」
壱臣が、そっと声を上げた。優しく話そうとしているのかもしれない。俺もさっき、雫石母さまが怖くないように話そう、って考えたもん。でも、壱臣はそんなことしなくても声が優しい。話し方も優しい。そこに居るだけでふわふわと優しい感じがする。壱臣のことが怖かったら、雫石母さまが話せる人はきっともうどこにもいない。
「今はもう夕刻で、夕食までそれほどの時間がありません。この時間から夕食の人数を変更されるいうのは、あまりに大変なお申し出やと思われます。皇城のお料理は、陛下と皇妃殿下のお口に合うようにすでに繊細な味の調整がなされとるので、その同じ料理の材料を更に二人分増やして、緋色殿下と成人く……成人殿下の口に合うように調整するんは難しいです」
緋色が頷くのを見て、壱臣は続けた。しっかり包拳礼をしながら言った。料理の話だから、すらすらとたくさん話している。
母さまの濡れた大きな目が、ぱちぱちと瞬いた。
「あの。それと、うちでは、うちの父、ええっと、養い親が、緋色殿下と成人殿下、それに、うちや乙羽さまや半助、常陸丸の好物をたくさん作って待ってくれとります。久しぶりやから、きっとたくさん作ってくれとるはずです。成人く……殿下は、それを楽しみにしてくれとりました。皇妃殿下のお誘いをお受けすると、それが食べられんくなるんです。だから、今日、皇妃殿下と緋色殿下、成人殿下がお食事を共にするんはできんのやと、そういうお話で……」
「う。うう……」
母さまがまた、顔を手で覆って泣き出したように見えたので、壱臣の優しい声はどんどん小さくなっていった。
何か泣くような話があったかな。とても分かりやすい説明だったけれども。
「私、私はただ、家族で食事を、と。それだけ。それだけなのに」
ひく、ひく、と泣きながら告げられた言葉。家族、家族か……。俺の知っている家族は、一緒に暮らしている仲良しな人。だから、雫石母さまは、俺たちの誰の家族でもない。だけど、一緒に暮らしていなくても仲良くなくても、血の繋がりのある人は家族なんだと聞いたから、雫石母さまと血の繋がりのある緋色が雫石母さまの家族なんだってことは知っている。伴侶も家族になるから、俺も家族。
でも、一緒に暮らしていない家族は、食事を一緒にしようと急に言っても難しい。だって、俺たちの家では、源さんがもう俺たちの好きな料理を作って待ってくれている。
雫石母さまの家では、雫石母さまや父さまが食べやすい食事が準備されている。
「母さま。俺たちは住んでいるのが別のおうちだからさ。だから、ええっと、先触れとか、あの、なんだろ? 約束? 約束かな? うん、約束をしてから、一緒にご飯食べよう?」
怖がらせないように喋るのって難しい。これで合っているのか分からないし。末良や亀吉に喋るみたいにすればいいのかな? いや、でも、二人を相手にした時のやさしく、っていうのは、知っていることの少ない二人にも分かりやすくってことだ。今考えているやさしく、とちょっと違うような気がする。
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「そんなこと言って、緋色さんはどうせ断るじゃないの」
はあ、と緋色はため息を吐いた。
「もう二度と、共に食事をする者の食べ方、飲み方が汚いなどと口にしない、突然泣き出したり不機嫌になったりしない、と誓約書を書いて頂けるのなら考えます」
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