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第十章 されど幸せな日々
85 口の端のご飯粒 成人
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ああ、そうか。それが、緋色の嫌なこと。母さまにされて嫌なことなんだ。
俺が一緒に食事をした時に、母さまが急に怒り出したり泣き出したりしたことはなかったけれど、緋色が一緒に食事をした時にはあったんだ。今みたいに。
優しく言っても、何も言わなくても泣いちゃうようなこと。怒る時もあった? そうだ。あの日。父さまや母さま、朱実殿下と赤璃さまも一緒にご飯を食べた帰りに緋色が泣いたあの日。緋色は父さまに言っていた。母上が、俺の食べ方が汚いと言った後でたくさん食べる練習をさせられたけれど、これでいいと誰も言ってくれないから、汚い食べ方が直っているのか分からない、って。練習した後とする前で何が違うのかも分からないから、余計に、これでいいのか分かっていないのだって。
緋色の食べ方は、綺麗だ。緋色と暮らし始めるまでちゃんとした食事をしてこなかった俺には、どんな形の食べ方が正解かなんて分からないのだけれど、そんな俺が見ても綺麗だ。その緋色の食べ方を見て、食べ方が汚いから嫌な気分になるって言うのなら、ちゃんとした練習をしていない俺となんてとても一緒に食べられない。緋色は、俺が雫石母さまに急に怒られたりしないように約束をもらってくれるつもりなのかな。緋色が、人に怒られるような食べ方をする事なんてないんだから。
「俺の食べ方が下手くそだから、ごめんね」
俺が言うと、緋色はびっくりしてこちらを見た。
「え? なるは上手よ?」
乙羽の声。
「だって俺、お茶碗持てない」
「持てないなりに上手に食べようと頑張ってるじゃない。半助も。できない事はしょうがないんだし、できる範囲で頑張っていたら充分よ。小さな子ども達もね、頑張って自分で食べているだけでもう、とっても素敵だった。私、末良や亀吉さまが一生懸命に食べている様子が可愛くて仕方なかったわ。お口の端に付いてしまうご飯粒も可愛くて」
「ふふっ」
ご飯粒を色んな所に付けながら、もりもり食べる亀吉。まだあまり上手に手を動かせないけれど、自分でやるって言う。可愛い。色んな所にこぼれても、それを駄目だとか嫌だって言う人なんていない。末良は食べることが大好きだから、二歳にしては食べるのがとても上手だけれども、お箸はまだ使えない。そして、やっぱりこぼしたり落としたりはしてしまう。でも、上手だね、って皆言う。
そうか。
俺はこぼしたりはほとんどしないし、お箸も使えるから、そんなに下手くそでもないか。
「母上はご病気で、そういった小さな子どもならではの仕草すら、時々カンに触られると聞いています。俺も成人も、普段とても自由に食事をしているから、母上の求める形を常にとる事はできない。だから、食事は別に取るのが互いの為だと俺は思う。だが、母上が、それでも俺たちと共に食事をすることを望まれるというのなら、その時、俺たちの食事態度が母上の意に沿わなかったからといって取り乱さない、という約束が欲しい。俺は、母上が取り乱す様子を見るのが嫌なんです。ましてや、それが俺の所為だと言われるのがとても苦痛です。母上。俺の言う事は何か間違っていますか?」
俺が一緒に食事をした時に、母さまが急に怒り出したり泣き出したりしたことはなかったけれど、緋色が一緒に食事をした時にはあったんだ。今みたいに。
優しく言っても、何も言わなくても泣いちゃうようなこと。怒る時もあった? そうだ。あの日。父さまや母さま、朱実殿下と赤璃さまも一緒にご飯を食べた帰りに緋色が泣いたあの日。緋色は父さまに言っていた。母上が、俺の食べ方が汚いと言った後でたくさん食べる練習をさせられたけれど、これでいいと誰も言ってくれないから、汚い食べ方が直っているのか分からない、って。練習した後とする前で何が違うのかも分からないから、余計に、これでいいのか分かっていないのだって。
緋色の食べ方は、綺麗だ。緋色と暮らし始めるまでちゃんとした食事をしてこなかった俺には、どんな形の食べ方が正解かなんて分からないのだけれど、そんな俺が見ても綺麗だ。その緋色の食べ方を見て、食べ方が汚いから嫌な気分になるって言うのなら、ちゃんとした練習をしていない俺となんてとても一緒に食べられない。緋色は、俺が雫石母さまに急に怒られたりしないように約束をもらってくれるつもりなのかな。緋色が、人に怒られるような食べ方をする事なんてないんだから。
「俺の食べ方が下手くそだから、ごめんね」
俺が言うと、緋色はびっくりしてこちらを見た。
「え? なるは上手よ?」
乙羽の声。
「だって俺、お茶碗持てない」
「持てないなりに上手に食べようと頑張ってるじゃない。半助も。できない事はしょうがないんだし、できる範囲で頑張っていたら充分よ。小さな子ども達もね、頑張って自分で食べているだけでもう、とっても素敵だった。私、末良や亀吉さまが一生懸命に食べている様子が可愛くて仕方なかったわ。お口の端に付いてしまうご飯粒も可愛くて」
「ふふっ」
ご飯粒を色んな所に付けながら、もりもり食べる亀吉。まだあまり上手に手を動かせないけれど、自分でやるって言う。可愛い。色んな所にこぼれても、それを駄目だとか嫌だって言う人なんていない。末良は食べることが大好きだから、二歳にしては食べるのがとても上手だけれども、お箸はまだ使えない。そして、やっぱりこぼしたり落としたりはしてしまう。でも、上手だね、って皆言う。
そうか。
俺はこぼしたりはほとんどしないし、お箸も使えるから、そんなに下手くそでもないか。
「母上はご病気で、そういった小さな子どもならではの仕草すら、時々カンに触られると聞いています。俺も成人も、普段とても自由に食事をしているから、母上の求める形を常にとる事はできない。だから、食事は別に取るのが互いの為だと俺は思う。だが、母上が、それでも俺たちと共に食事をすることを望まれるというのなら、その時、俺たちの食事態度が母上の意に沿わなかったからといって取り乱さない、という約束が欲しい。俺は、母上が取り乱す様子を見るのが嫌なんです。ましてや、それが俺の所為だと言われるのがとても苦痛です。母上。俺の言う事は何か間違っていますか?」
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