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第二部(アレク編)
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※sideアレク
オーキッド殿下がスタングロム侯爵家に訪問する護衛任務があると知った時、俺は一も二もなく手を挙げた。
当日の朝、オーキッド殿下から『アドリアーナ嬢目当てか』と問われた時には恥ずかしさに何も言えなかったが、邸内の護衛まで命じて貰えたので素直に嬉しかった。喜んでいてはいけないのだが。
オーキッド殿下とモンティアナ嬢が婚約してからの今後の予定を話している間、アニーからの視線が自分に注がれているようで緊張した。騎士らしく、少しでも格好良く映るよう姿勢と表情にいつも以上に気を付けた。
すると、オーキッド殿下がオスカー殿を自分の騎士に望んでいるという話をしていた時、アニーが突然、俺に話しかけてきた。
「アレキサンダー卿も第一王子殿下の騎士にと言われたのですよね?」
アレク様ではなくアレキサンダー卿と呼ばれたことに少し寂しさを覚えたが、公私を分けるのは当然のことと気を取り直す。
そしてその質問については非常に答えづらい。アズール殿下の騎士になることをすぐに受け入れられない理由はアニーなのだから。
「その件については……まだ、決めかねているところで」
「あら、どうしてですか? とても良いお話だと思うのですけれど」
「う、ん……そうなのですが」
幼少の頃より、アズール殿下の騎士になることを目標としてきたし、前の人生では迷わずアズール殿下に剣を捧げると誓った。
けれど、そうだ。俺は間違いなく、恋にうつつを抜かしているのだ。騎士失格である。
「アレキサンダーはオスカー殿の剣の指南にこちらへ来るのが楽しみで、また私がモンティアナ嬢に会いにこちらへ来ると知れば自ら護衛を買って出てくれるほど。だからアズール兄さんの専属騎士になることに難色を示しているという訳なんだ」
「殿下、私の内心を言い当ててアドリアーナ嬢に言ってしまうのはやめてください」
紅茶を飲みながら軽い口調でオーキッド殿下に暴露される。今の俺の最大の悩みだというのにこの扱われ方はどうだ。
オーキッド殿下に恨みがましい視線を送るのをやめて、アニーを見ると、その顔は思い悩んでいるようだった。
「アドリアーナ嬢、忘れてください」
「え、ですが……」
「まだ現段階では決めかねているというだけです」
アニーが理由だけれど、アニーが原因ではない。自分の気持ちをはっきり口にできない俺が悪いのだ。
アニーのことを俺が幸せにしてみせる! と自信を持てない。だって俺は自他共に認める剣にしか能のない男で、その剣にすら今は身が入っていない始末。
前はお互いが平民で、なんだかお互いしかいないような気になって、プロポーズができたんだ。だけど、今のアニーは貴族令嬢で、嫁ぎ先なんていくらでもあって、俺より条件の良い男も、俺より女性を喜ばせられる男だっていくらでもいる。
だけどもし、他の男とアニーが婚約なんてしたら……どうするんだろうか、俺は。
「アドリアーナ嬢は今現時点で婚約者はいるのかい? まぁセレストと同じ年頃の令嬢だからいないだろうけど、一応ね」
「婚約者はまだおりませんが、第三王子殿下と婚約をなどとは全く思っておりません」
「あっ、私が……」
「お姉様がオーキッド殿下とご婚約なさることとは関係なく、望んでおりません」
「それは、どうして?」
「お慕いしている方がおりますので」
ドン! と脳天に雷が落ちたような衝撃だった。アニーに、好きな男がいる、だと……。
「婚約の打診はしているのかな?」
「いいえ。まだ何も」
「その理由は教えてもらえる?」
アニーが考え込む素振りを見せる。そして目が合ったと思うとさらに何かを考えている様子だ。俺は絡んだ視線に思いを込めた。他の男のものになんてならないでくれ、と。
「まだ私は6歳ですし、尻込みしておりました。でも少し行動を起こしてみることにします」
「それは助かるよ。幼い頃から婚約している令嬢もいないことはないしね」
あぁ、聞きたくない。もうこれ以上この場にいたくない。
アニーが他の男との婚約を望んでいる。じゃあ俺は、俺の気持ちはどうしたらいい。もう、侯爵家に通うことも辞めてしまおうか。
そのあとどうして王宮まで戻ったか覚えていない。同行していた騎士達から何も言われなかったということは、特におかしな行動はしていないのだろうが。
オーキッド殿下と別れる時に、『良かったじゃないか、俺に感謝してくれよ』という謎の煽りを受けたが、何をどう感謝すればいいのか分からない。
アニーを諦めるきっかけを得たことに対してだろうか……。
オーキッド殿下がスタングロム侯爵家に訪問する護衛任務があると知った時、俺は一も二もなく手を挙げた。
当日の朝、オーキッド殿下から『アドリアーナ嬢目当てか』と問われた時には恥ずかしさに何も言えなかったが、邸内の護衛まで命じて貰えたので素直に嬉しかった。喜んでいてはいけないのだが。
オーキッド殿下とモンティアナ嬢が婚約してからの今後の予定を話している間、アニーからの視線が自分に注がれているようで緊張した。騎士らしく、少しでも格好良く映るよう姿勢と表情にいつも以上に気を付けた。
すると、オーキッド殿下がオスカー殿を自分の騎士に望んでいるという話をしていた時、アニーが突然、俺に話しかけてきた。
「アレキサンダー卿も第一王子殿下の騎士にと言われたのですよね?」
アレク様ではなくアレキサンダー卿と呼ばれたことに少し寂しさを覚えたが、公私を分けるのは当然のことと気を取り直す。
そしてその質問については非常に答えづらい。アズール殿下の騎士になることをすぐに受け入れられない理由はアニーなのだから。
「その件については……まだ、決めかねているところで」
「あら、どうしてですか? とても良いお話だと思うのですけれど」
「う、ん……そうなのですが」
幼少の頃より、アズール殿下の騎士になることを目標としてきたし、前の人生では迷わずアズール殿下に剣を捧げると誓った。
けれど、そうだ。俺は間違いなく、恋にうつつを抜かしているのだ。騎士失格である。
「アレキサンダーはオスカー殿の剣の指南にこちらへ来るのが楽しみで、また私がモンティアナ嬢に会いにこちらへ来ると知れば自ら護衛を買って出てくれるほど。だからアズール兄さんの専属騎士になることに難色を示しているという訳なんだ」
「殿下、私の内心を言い当ててアドリアーナ嬢に言ってしまうのはやめてください」
紅茶を飲みながら軽い口調でオーキッド殿下に暴露される。今の俺の最大の悩みだというのにこの扱われ方はどうだ。
オーキッド殿下に恨みがましい視線を送るのをやめて、アニーを見ると、その顔は思い悩んでいるようだった。
「アドリアーナ嬢、忘れてください」
「え、ですが……」
「まだ現段階では決めかねているというだけです」
アニーが理由だけれど、アニーが原因ではない。自分の気持ちをはっきり口にできない俺が悪いのだ。
アニーのことを俺が幸せにしてみせる! と自信を持てない。だって俺は自他共に認める剣にしか能のない男で、その剣にすら今は身が入っていない始末。
前はお互いが平民で、なんだかお互いしかいないような気になって、プロポーズができたんだ。だけど、今のアニーは貴族令嬢で、嫁ぎ先なんていくらでもあって、俺より条件の良い男も、俺より女性を喜ばせられる男だっていくらでもいる。
だけどもし、他の男とアニーが婚約なんてしたら……どうするんだろうか、俺は。
「アドリアーナ嬢は今現時点で婚約者はいるのかい? まぁセレストと同じ年頃の令嬢だからいないだろうけど、一応ね」
「婚約者はまだおりませんが、第三王子殿下と婚約をなどとは全く思っておりません」
「あっ、私が……」
「お姉様がオーキッド殿下とご婚約なさることとは関係なく、望んでおりません」
「それは、どうして?」
「お慕いしている方がおりますので」
ドン! と脳天に雷が落ちたような衝撃だった。アニーに、好きな男がいる、だと……。
「婚約の打診はしているのかな?」
「いいえ。まだ何も」
「その理由は教えてもらえる?」
アニーが考え込む素振りを見せる。そして目が合ったと思うとさらに何かを考えている様子だ。俺は絡んだ視線に思いを込めた。他の男のものになんてならないでくれ、と。
「まだ私は6歳ですし、尻込みしておりました。でも少し行動を起こしてみることにします」
「それは助かるよ。幼い頃から婚約している令嬢もいないことはないしね」
あぁ、聞きたくない。もうこれ以上この場にいたくない。
アニーが他の男との婚約を望んでいる。じゃあ俺は、俺の気持ちはどうしたらいい。もう、侯爵家に通うことも辞めてしまおうか。
そのあとどうして王宮まで戻ったか覚えていない。同行していた騎士達から何も言われなかったということは、特におかしな行動はしていないのだろうが。
オーキッド殿下と別れる時に、『良かったじゃないか、俺に感謝してくれよ』という謎の煽りを受けたが、何をどう感謝すればいいのか分からない。
アニーを諦めるきっかけを得たことに対してだろうか……。
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